女神の憂鬱


                  前編







 その出来事は、道具屋で買い物をした時に始まった。

 「すごいわ、これっ!」

 そのポスターを目にして、最初に口を開いたのはゼシカだった。

 他の三人も何事だろうとゼシカの見ているソレを覗き込み、「おぉっ」と感嘆の声を漏らす。

 四人で覗き込んでいたのが目に入ったらしく、道具屋の主人がにこにこと笑みを浮かべて
声を掛けてきた。

 「それは村おこしでやってる美人コンテストでね。
 旅人でも参加は可能なんだよ」

 四人が見ているポスターを見て、主人が丁寧に説明をしてくれる。

 なんでも、巡礼者の多いゴルドに近いというのに、何故かこの村にはあまり旅人がこなかっ
たらしい。

 そこで、なにか人が集るようなイベントをやろう、というとこで美人コンテストを開くコトにした
のだが、ただの美人コンテストではつまらないだろうと、村長が言い出した。

 たまたま村長が教会の関係者と幼馴染で、なにか良いアイデアはないだろうかとその人物
に相談したところ、それなら女神像も絡めて、もっと大きなモノにしよう、となったらしい。
 
 教会が関わる事で賞品は豪華になり、それにつられた旅人や、我こそはと思う女性。

 その女性見たさに集る男性、それに露店が集ったりと、かなりの人間が集り、結果大好評
で終わった。

 以来、イベントは年に一回のペースで行われている。

 ポスターには参加できる女性の条件、優勝商賞品や特典が細かく書かれている。

 その中で四人がもっとも注目したのは、その賞品だった。

 『優勝はせかいじゅの葉と、賞金千ゴールド。
 準優勝でも、せかいじゅの滴と五百ゴールド』

 魔物と旅をしながら戦っている旅人にとって、こんなにおいしいと思える賞金と賞品は滅多
にないだろう。

 と、主人は視線をゼシカに向けて、ふたたびにこりと笑う。

 「お嬢ちゃんなら、優勝間違いなしだろうね。
 どうだい、出てみたら?」

 主人の言葉に、三人も頷く。

 「ゼシカの姉ちゃんなら優勝も夢じゃねぇでげすよっ」

 「オレもそう思うぜ。ゼシカよりいい女はそうそう居ないだろ。
 ・・・教会が絡んでるのは気に入らないけど」

 「僕も賛成っ! ねぇゼシカっ、出てみなよ〜!」

 「そうね・・・、出てみてもいいかも」

 それを聞いた主人は、棚から参加申し込み書を取り出す。

 「村長の家で受付しているから、もっていくと良いよ」

 そういうわけで、一行はこの村に滞在するコトになった。





 そしてコンテスト当日。

 「出るからには優勝を目指すわ」

 と言うゼシカと共に、まだ時間があるからと会場周辺をぐるりと歩いてみる事にした。

 少し前までは閑散としていたが、今は露店や人でごった返している。

 屋台で買った焼ソバを食べながら、エイトがヤンガスが取っておいてくれた席につく。

 「すごいね、お祭みたい」

 「みたい、っていうか、お祭なんだろ」

 「それにしても、随分と集っているでげすね」

 「・・・ちょっと緊張しちゃうかも」

 珍しく不安げに言うゼシカに、エイトはぽんぽんと背を軽く叩き、

 「大丈夫だよ。ゼシカなら、大丈夫」

 エイトの言葉に、ゼシカはくすりと笑い、「ありがとう」と返す。

 何故かエイトが「大丈夫」と言うと、本当に大丈夫なような気がしてくるから不思議よね、と
内心呟き、オレンジジュースの入ったグラスを取る。

 と、そこに一枚のチラシが差し出された。

 振り返れば、会場の案内図を配っているらしい村の男の子と女の子で、にこにこにと笑みを
浮かべながら、

 「どうぞ、ごらんくださいっ」

 と、あちこちにチラシを配っている。

 礼を言って受け取り、ククールが目を通し始め―――凍りついた。

 突然青ざめたククールに、全員が首を傾げる。
 
 「ど・・・どうしたのよ、ククール」
 
 名を呼ばれた彼が、ぎぎぃっと不自然な動きで顔を上げ、チラシを机の上に広げる。

 そして無言である場所を指し示した。その場所を見て、全員が凍りついた。

 ククールの指差した場所。そこには、小さくこう書かれている。

 『特別審査員・聖堂騎士団長・マルチェロ』

 沈黙が降りる。

 辺りには人々の賑やかな声や、カップとカップがぶつかりあう音が響くが、そんな音すら耳に
入らないほど、四人ともそのチラシに視線を向けたままだった。

 最初に口を開いたのはククールで、彼は額を押さえて呟く。

 「ぜっっっ・・・たい、イヤガラセで点はくれないだろうなー・・・」

 「・・・そんなコトは・・・ない、と・・・思いたいような気がするけど・・・」

 しかしマルチェロならやりかねない。

 声に出さずとも、四人とも心の中でそう思う。

 暫くの沈黙の後、ヤンガスがゼシカの顔を覗き込み、「やめるでげすか?」と聞く。

 「・・・いえ、出るわっ。
 これっくらいで負けてたまるもんですかっ。
 なんとかしてマルチェロの目を欺いて、目指せ優勝! よ!」

 が、予想に反して、ゼシカは拳を握りそう宣言する。

 元々が負けず嫌いだからか、それとも逆境に燃える性格なのかわからないが、どうやら相当
ノッてきたらしい。

 こうなってくると止めようがない。

 それを知っている三人は互いに顔を見合わせ、とりあえず応援の言葉を送る事にした。

 「頑張るでげすよ、ゼシカのねーちゃんっ」

 「僕、応援してるよっ」

 「いっそ変装でもするか? 髪を下ろして染めればばれないかも」

 「・・・私、自分が出るなんて、言ってないわよ」

 三人の言葉に、ゼシカがぽつりと呟き、にこりと微笑む。

 『え?』

 なにを言っているのだろう、とエイト達がきょとんとすると、ゼシカは笑みを浮かべたままエイト
を指さし、

 「私たちのパーティにはもう一人女の子がいるでしょう?」

 ゼシカの唇から紡がれた言葉にエイトは硬直し、ククールは手を打ち、ヤンガスはイスから転
げ落ちた。

 「その手があったかっ」

 「えええええええっ!? ぼぼぼ、僕っ!? む、無理無理無理っ!!」

 首と手をぶんぶん大袈裟に振って否定しまくるエイトの肩に、ぽんと手を乗せ、ゼシカが微笑む。

 「さぁ、エイト? とぉっても可愛くしてあげるわ〜。おねーさんと一緒にいきましょうね?」

 通り過ぎの男ならば、一発で虜になってしまうほどの笑みを浮かべながら、逃がさないとばか
りに力一杯エイトの腕を掴んでずるずると引っ張っていく。

 普段の彼女からは想像できないほどの力に、エイトは顔を青くし、助けを求めるようにククール
とヤンガスに視線を向ける。

 が、ククールはひらひらと手を振り、ヤンガスは頭を下げるだけ。

 ・・・今の状態のゼシカは、誰にも止めるコトなどできやしない。

 そう言われた気がして、エイトは「そんなぁぁぁ」と半分泣きそうになりながら絶叫していた。






 その頃、審査員控え室、と書かれた紙が張ってある部屋の中で、マルチェロは憮然とした表
情でイスに座っていた。

 用意された紅茶も一口と飲まれることなくすっかりと冷え、机の上に乗ったまま。

 彼はこの部屋に通されてからずっとこのままだった。

 「・・・なんでこの私がこんなくだらないイベントに出なければならないんだ」

 呟いて、ふと視線を窓の外に向ける。

 辺鄙な田舎の村だというのに、溢れんばかりの人・人・人。

 見ただけでも鬱陶しい。

 元々はニノが受けた依頼(なのか本人の趣味なのかは謎だけれど)なのだが、運悪く風邪を
ひいてしまい、やむなく欠席となってしまった。

 そこで、代理人としてマルチェロがこの村に来る事になったのだが―――

 「・・・くだらない」

 部屋にも飾ってあるポスターを見て、マルチェロははき捨てる。

 ポスターには、大きな文字で『女神の美しさと優しさを兼ね備えた女性の応募をお待ちしてい
ます』と書かれているのが気に入らない。

 あの女神像だって、外見は綺麗だが、その足元―――一般市民が入れない場所では、黒い
やりとりがいつだって行われているのだ。

  ―――そう考えれば、今回のコンテストもそれと変わらないか?

 考えて、口の端を笑みの形にゆがめた。

 外見の美しさを競わせる、コンテスト。

 外見は派手で麗しいかもしれないが、競っている女性たちは賞金目当てのうえに互いに貶
めあう。

 加えて、祭りの売上の半分は教会行きである。

 これもやはり、遊びに来ただけの一般人は知らない事。

 くつくつと笑っていると、扉がノックされた。

 「マルチェロ様。お時間です」

 扉越しに声をかけられて、仕方なくマルチェロは立ち上がった。






 この日の為に、村の真ん中に用意された特設ステージ。

 その周りに簡単に作られた席が並び、一番前には、審査員が座る特別席が設けられて
いる。

 その審査員席からは死角になる場所に席を取ったククールたちは、落ち着かない様子で
ステージを見つめていた。

 「兄貴、緊張してないといいが・・・」

 「それより、女らしさを競うコンテストなんだろ?
 あいつ、女らしさのかけらもないからなー・・・。そっちのほうが不安なんだけど・・・」

 万が一の為に、黒いローブを羽織ったまま、二人が小声で会話をしていると、横に誰かが
座る気配。

 顔をあげれば、疲れきったゼシカが頭を抱えていた。

 「ど、どーした・・・?」

 「うん・・、ちょっと、いろいろ、あって・・・」

 「・・・いろいろ?」

 「まさか、逃げたとか?」

 問いに、ゼシカはふるふると首を振る。

 「それはないわ。しっかり手、繋いでいたもの」

 「じゃあ・・・女装が似合わなかった、とか」

 ククールの言葉に、ゼシカが軽く頭を叩く。

 「女装も何も、エイトは正真正銘、女の子です」

 ゼシカの言葉が終わった頃、ステージに一人の男が上り、マイクを通して叫ぶ。

 『おまたせいたしましたっ。只今から第三回、ミス・ゴルドを開催いたしますっ』

 途端、巻き起こる歓声。

 「・・・なんでこの村の名前使わないんだろうな?」

 「女神像とか教会とかがはいってくるからじゃない?」

 どうでもいい、とばかりにゼシカが答えたとき、右袖から綺麗に着飾った少女たちが順番に
出て来て並んでいく。

 「・・・どれがエイト?」

 きょとんとステージを眺める二人に、ゼシカは「あれあれ」と指差し、

 「右から五番目のコ」

 言われて興味深げにククールが視線をやり―――そのまま、動きを止めた。

 「・・・ば・・・」

 「ば?」

 「化けるもんだなー・・・。エイトでも・・・」

 驚いたククールの視線の先には、ゼシカに見立ててもらった淡い空色のドレスを纏い、大地
色の髪を背の中ほどまで下ろしたエイトの姿があった。







 遅れてしまいましたが、四万ヒットありがとうございました。

 続きはすぐにでもアップしたいです(汗)

 す、すみません・・・っ!




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