意外な事に、マルチェロは料理が上手かった。忙しいオレ達に代わって、毎晩やたらにこった料理を出してくれる。

 本人曰く「止めてもらっている礼だ」とのコトなのだが・・・。どうにもわからない。

 アレだけ泊まる気はない、と言っていたのに、エイトと寝室へ消えてから、態度をころりと変えて。

 ・・・・もしかして、寝室でエイトに脅されたんだろうか。いやいや、まさか。じゃあ、マルチェロになにか思うところである、とか?

 オレが心配・・・な、わけないか。現に食事時や就寝前や朝目が覚めて顔を合わせたときなんか、くどくどと文句言われるし。

 ホントになんでいるんだか。・・・・最初は嬉しかったんだけど。でもさ、一応新婚だし。毎晩いちゃいちゃしたいわけですよ、オレは。

 でもマルチェロがいるから一緒に風呂は入れないし。部屋に行っても「マルチェロさんいるし」とエイトから我慢を言い渡される始末。

 最初の三日は耐えたけれど。五日、一週間、十日ときて。そーろーそーろー限界なんですがっ!!

 「・・・兄貴」

 「なんだ? おかわりか?」

 ・・・十日も一緒に居たせいか、オレも兄貴もだいぶ慣れてきて、今ではこんなほのぼのした会話も可能(注:当社比1.5倍)

 「・・・・うん。ありがと・・・・」

 いろいろと限界なんだけど。でも「いつまでココにいるんだよ」とか言ってしまったら最後、じゃあ出て行くと言われて、また行方がつかめなく
なってしまったらどうしよう、とか考えているオレはヘタレ以外の何者でもなくて。
  
 結果、こいうい会話もループしているわけで。

 ・・・・・・オレ、どっちも傍にいてほしいとか、我侭だなぁ。いやでも、できれば兄貴には、隣に家とか建てて住んでもらいたいけど。

 そんなこんなで悩んでいると、玄関から元気のいい声が響いてきた。ソレを聞くなりオレ達は立ち上がり玄関へとお出迎え。

 マルチェロには普通に「ただいま」。で、オレにはほっぺにチュウ。これくらいは恥ずかしくないらしい。

 「あっ、マルチェロさん。用意、出来てますか?」

 「ああ。言われたように作っておいたが・・・本当に行くのか」

 「行きますよ〜。だって約束しましたし。マルチェロさんも、すっきりすると思います」

 なんだ? なんの話をしているんだろう。顔に出たのか、エイトは「ちょっとシャワー浴びてくるから、ククールも出かける準備してて」と走って
いく。いや出かけるって。今から?

 マルチェロに視線を向ければ、彼は大きなバスケットに作っていたらしい弁当を詰め込んでいる。

 「ええと? どーいうコト?」

 「・・・・・・・・月見、だそうだ。おまえも、用意をしろ」

 月見って。意味がますますわからなくなって、首を傾げてしまう。わざわざ弁当を持って月見とか。ベランダからでも充分だろうに。

 首を傾げつつも、楽しそうな雰囲気におされて準備を進めた。







 「相変わらずいい眺めだねぇ」

 嬉しそうに言って、紅茶を啜るエイト。

 「ふむ。初めて来たが、なかなかいい場所だな」

 サンドイッチを齧りながら、同意するマルチェロ。

 「つーかさぁ。なんでわざわざこんなトコで月見よ?」

 ワインを片手に、不貞腐れるオレ。

 なんつーか。ものすごく突っ込みに困る展開だよな、これ? 別に城の屋上だって月くらいよく見えるだろうに。

 と、エイトがにこにこ笑いながら、オレとマルチェロを交互に見つめ、「もういいですよね?」とマルチェロに声をかけた。

 「・・・まぁ・・・そうだな」

 なんだ? 二人でなんの話だ? てかいつの間に二人の秘密を!?

 妙な不安が湧き上がってくる。けれどオレの焦りに気がついていないらしいエイトは、にこにこ笑ったまま、視線を月へと向ける。

 「今日は、満月でしょ? マルチェロさんの願いが届いたのなら、扉が開くかもしれない」

 「え?」

 その言葉に、マルチェロを見やる。けれど、彼は顔を背けて視線を月へと向けていた。

 「うちに泊まってもらっていたのも、満月の晩が来るまで、待ってて貰うつもりだったからなんだよ」

 「それ・・・いつ、決めたんだ」

 「うちに初めて来た日にだよ。お風呂に入ったあとにね。寝室でちょっと話し合いを」

 ああ・・・、そういやあの日、ちょっとだけ心配したんだっけ。

 「話って、なんの?」

 「うん。それは・・・・・、まだ、内緒かな。イシュマウリさんに会えたら・・・・きっとククールも、わかると思う」

 わかるって。イシュマウリが出来るコトなんていったら、モノに宿った記憶を呼び起こしたりとかだったよな。

 それがどうマルチェロと関係・・・・・・・。そこまで考えて、思い当たることが一つ。

 どこぞの王様は、イシュマウリに亡くなったお后の記憶を呼び出してもらった。

 まさか。まさか、とは思うけれど。イシュマウリに、誰かを呼び出してもらうつもり、なんだろうか。

 いや、誰かって言ったらこの場合・・・・・・オディロ院長とか・・・・・前法皇様、とか、なんだろうけれど。

 マルチェロが言い出したとは思えない。となると、エイトだろう。でも、どうしてだ。それは、マルチェロが辛いだけじゃないんだろうか。
 
 思わずマルチェロに視線を投げるが、もういつもの顔に戻るとサンドイッチを口に運んでいる。

 声をかけようとして、エイトにきゅっと手を握られた。

 「エイト?」

 「ククールも、祈ってて」

 月明かりにエイトの柔らかな笑みが照らされて。たったそれだけで、心配だった気持ちがどこかへと吹っ飛んでいってしまった。

 きっとエイトになにか思うところがあって、それをマルチェロが聞いて、納得してココに来たんだろうし。

 それならエイトの言うように、祈っていよう。イシュマウリが出てきてくれるように。

 けれどなにも起きることもなく、時間だけだけが過ぎていく。弁当も既にからっぽ。酒も既になくなって。まん丸な月が真上に昇ってきた。

 ―――と。

 「・・・・くる」

 小さな呟き。あたりの魔力が高まっていくのがわかる。マルチェロもそれに反応して、二人を見渡し―――全員の視線が一点に注がれた。

 月明かりに照らされた窓枠の影が伸びていき、壁に扉を作る。そして、より強い魔力があたりを覆えば、そこには唐突に異世界への入り口が
出来あがる。

 「ホントにでたっ」

 「こ・・・これが、エイトの言っていた、月の扉・・・?」

 「お邪魔しまーす」

 戸惑うオレたちを尻目に、エイトはさっさと扉に手をかける。ちょっとは驚いてくれ、頼むから。いや、そーいうトコも好きなんだけどっ。

 動揺するマルチェロの手を引いて、中に入る。エイトは入り口付近で待っていたようで、くるんと振り返ると、早く早くとせかすように手招きを
している。

 浮かぶ月やら流れる景色やらに兄貴は目を白黒させながら、それでもオレと手を繋いだまま、引っ張られて歩く。

 いつもの兄貴なら振り払うはずなんだけど、これは相当驚いているんだろうなぁ。・・・・・・あたりまえか。

 「おや、エイト。久しぶりだね」

 扉を開けると、相変わらずのんびりとハープを弾いているイシュマウリの姿が目に入った。

 「ふふ。またこうして会えるとは思わなかったよ。また、よほど強い『願い』を連れてきたものだね」

 言って視線をオレとマルチェロへと向けてくる。って、え、オレと兄貴?

 「お願いできますか?」

 「扉をあけることが出来るほどの願いを、拒む理由はないからね。どれ、もう少し詳しく、君たちの持ち物に聞かせてもらおうか」

 「も、持ち物に聞くだと? 何を言っている。理由ならば、私が説明を―――」

 ハープを奏でようとするイシュマウリに、兄貴が声を大きくする。と、イシュマウリは思わず見惚れる程の笑みをうかべ、

 「ふふ。あなたは少し意地っ張りのようだ。本心は唇の裏に隠してしまうでしょう?
 そんな意地っ張りなひとは、素直に話しているつもりでも、大事なトコロはやはり隠してしまうからね。
 聞くよりも、持ち物に話を聞くほうがもっと簡単なんだよ?」

 その言葉に兄貴が口を噤む。途端に、あたりに優しいハープの音が響き渡って。

 「な、なんだこれはっ。エ、エイト!」

 ふわふわと浮き上がる音符に、マルチェロが慌てた声で助けを求めるが、エイトはにこにこ笑ったまま、「大丈夫ですよー」と答えている。

 てか、どーしてソコでエイトに助けを求める。

 「・・・・・・・では行こうか」

 必要な話を聞けたのか、ハープを奏でる手を止めるとオレ達を振り返り、微笑む。

 その言葉に、マルチェロが顔を強張らせた。

 ―――ああ、やっぱり、そうなのか。それがマルチェロの強い願いなのか。

 イシュマウリが扉を開けたそこは、願いの丘ではなく―――サヴェッラ大聖堂。彼の力なのか、見張りの騎士達は眠りに落ちていて、虫の
音すら聞こえてこない。

 「・・・・ククール。僕たちは、ココで待ってよう」

 「え?」

 エスカレーターに乗ろうとした刹那、エイトがオレの手を握って、そう引き止めてきた。なんで、と声に出すより早く、マルチェロとイシュマウリは
ソレに乗って上へと登って行ってしまった。

 「エイト、なんで・・・」

  いくら鋼の精神の持ち主だとは言え、自分が―――手に、かけたかもしれない相手に、会いに行くんだ。心配にもなる。

 うっかり悔やんで、あの高さから身でも投げられたら。

 「今、マルチェロさんがいないから話すけど」

 落ち着いてね、というようにぽんぽんと背中をたたかれる。仕方なく頷いて、とりあえず近くのベンチに腰掛けることにした。

 「僕が始めてマルチェロさんを捕獲した日なんだけどさ」

 捕獲て。そんな猛獣みたいに。・・・・・・・いや、ある意味、確かに近いけど。

 「怪我、いっぱいしてた。着ていた服も、血だらけだった。傷も化膿しててかなり、酷かったんだ。そのせいで熱もあったし」

 「・・・え?」

 「薬草も、持ってなかったんだよ」

 な、・・・・え、いやいや。待てって。だって、兄貴は・・・ベホイミ・・・使ってたはずだ。それがどうして?

 呆然としていると、エイトが話を続ける。

 「どうして回復魔法を使わないんですかって聞いたら、『使う必要がない』って。だから僕がベホマかけたんだけど、ものすごく怒られた」

 今のオレの顔はひどいコトになっているのかもしれない。見上げているエイトが、困った顔をしているのが、その証拠だ。

 よしよしと、慰めるように頭を撫でてくれる。その掌が優しくて、更に泣き出しそうになってしまった。

 「とにかくこのままにしておいたら、後々取り返しがつかない事になるんじゃないかって、不安になってきて・・・。
 それで、縛り上げてうちに連れて帰った」
 
 ・・・な、なるほど。それであんな状態・・・。

 「で、その日の夜、寝室に案内したときにもう一回聞いてみた」

 「・・・よく、話してくれたな?」

 「うん。僕の胸触ったんだから、それくらい教えてくださいって言ったら、渋々と」

 エイトが笑顔で告げた言葉に、思わずベンチから転がり落ちそうになった。いゃ、オレもそれは言った覚えがあるけれど。

 「おまえ・・・そーゆうのドコで覚えてきたんだ?」

 「ククールだったら、どう言うかなったて考えたら、するっと出てきただけだよ」
 
 ・・・どうしよう。それはそれでなんか問題のような。いや、そうではなくて。

 話の続きを促すと、兄貴はため息をつきながら、呟くように語ってくれたそうだ。

 曰く―――回復魔法を使わないのは、自分の体を労わる必要がなくなったから。いくつもの命を奪った自分が、回復呪文を己にかけるなど、
出来るはずがない。

 それに。前法皇を思えば、自殺なんてできるはすがない、と。

 あっさりと自分の命を絶ってしまったら、彼は自分を許さないだろう。

 いや、例え苦しんで足掻いて死んでいったとしても、許してくれるはずがない。そもそも許して欲しいなんて思えるはずがない。

 それだけの罪を犯してしまったのだから。

 あてのない旅を続けて、魔物と戦い、死に掛けても決して回復呪文は唱えない。それが、自分への枷。

 そう、エイトに告げて、朝には出ると言ったらしい。

 けれどエイトは首を振り、条件を出したのだそうだ。

 「次の満月の晩まで、待ってくださいって言ったんだ。そうしたら、法皇様に会えるからって」

 「よく、信じたな、兄貴」

 「アスカンタの王様の話をしたらそっこーで信じた」

 そういうトコは相変わらずと言うかなんと言うか・・・・・。思わず頭を抱えると、エイトがくすくす笑っている。

 「けど、もしもそれで扉が開かなかったらどうしてたんだよ?」

 ふと沸いた疑問を口にすれば、エイトはきょとんとした後に、オレの手を取ると微笑む。

 「開くよ。そう、信じてた。だってククールもいたから」

 「へ?」

 「ククールのマルチェロさんを想う気持ちもあったんだから、開かないはずがないんだよ」

 確信を持って放たれた言葉に、オレは一瞬言葉をなくしてしまった。

 「いろいろあったけど、あんなふうに、自分をいじめながら生きていて欲しくない」

 「・・・・そう、だな・・・・。うん、もう少し、ちゃんと生きてて欲しいよな」

 マルチェロの言うことは尤もで。オレは―――他の人が見たら、それはずるいと言うかもしれないけれど、それでも、彼にはもう少しちゃんと
生きていて欲しい。
 
 生きたい、と思っていてほしい。自然と視線を法皇様の館へと向け、心から祈る。
 
 どうか今見ている『記憶』が、彼にとって希望となりますように、と。

 エイトもそれに倣うように目を閉じて、手を胸の前で組む。そして暫く、二人並んで祈りを捧げていた。







 どれくらいそうしていたか、空がうっすらと明るくなり、星々が太陽の光に霞み始めた頃。やっと二人が降りてきた。

 イシュマウリはこれでシゴトは終わり、とばかりに挨拶だけをするとどこかへと消えていく。

 その後ろに居たマルチェロはただ、無言。けれどその目許は微かに赤くなっていて。

 それが徹夜だったからなのか、それとも別の理由でなのかはわからないけれど。

 「・・・・・・帰ろうぜ」

 手を差し出して、呪文を唱える。もしかしたら、手を取らないかもしれない。そう思ったけれど。

 エイトがオレの左手を取り、あいた手をマルチェロへと差し出して。

 「僕たちの家に、帰りましょう?」

 僅かな間、迷ったようにオレ達の手を見つめていたが、小さく息をつくと両手を伸ばして掌を重ねてきた。




 それからはもう全員が徹夜だったこともあって泥のように眠りについた。気がついたら既に夕方。ちょっと寝すぎた。

 ぼうっとする頭を叩きながらベッドから這い出せば、まだエイトは熟睡中。その額にキスを落としてから、水分補給の為にキッチンへと
向かって―――硬直。

 なんかやたらにいい匂いがするなぁと思ったら、マルチェロが食事を仕込んでいるところだった。

 「やっと起きたか。まったく、だらしのない夫婦だ」

 「い、いや、その・・・・・ごめんなさい」

 とりあえず謝る。いやなんつーか。なにしてンの、とか聞かないほうがいいよな、コレは?

 「エイトもそろそろ起こして来い。話したいことがある。」

 その言葉に、どくりと心臓が跳ねた。用が済んだから、もう出て行く、と言う話なんだろうか。それとも。

 焦りつつも、エイトを起こして着替えさせてテーブルにつく。話は食事が終わってから、というコトで緊張しつつなんとか食事を終えた。

 ―――と、思ったら食後のデザートとか出してきた。

 話する気があるのか、とか、すっかり主夫が身についたな兄貴、とか、いろんな突込みが脳裏を過ぎったが、もしかしたらコレが最後の飯
だってコトで、兄貴なりに気を遣っているのかもしれない、と思いなおす。

 ご馳走様でした、とエイトが手を合わせる。それを見て、マルチェロはやっと話を切りだした。

 「トロデ王の例の話・・・うけよう、と思う」

 「へ?」

 「ホントですかっ!? やったっ!」

 きょとんとするオレとはしゃぐエイト。イヤ待て。話が見えない。オレだけ置いてけぼりになってるって。

 それに気がついたのか、エイトは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべると、

 「もしもダメって言われたら困るなって思って、コレは言わなかったんだけどね」

 言いながら、マルチェロに視線を戻す。と、エイトの言葉を継ぐように、彼が唇を開いた。

 「その気があるのなら、城で働かないかと、仰ってくださった」

 「え・・・ええええっ!?」

 唐突な話に、驚愕の声を上げる。働くって。なにをして? まさかオレと同じく、騎士として?

 「もうすぐ、城の中に教会ができるの。今まで神父様とか、いなかったから」

 そ・・・そーいや、なんかトントンやってンなぁとは思ったけれど。

 あまりにも唐突過ぎる話題に呆然としていると、マルチェロがコホンとちいさく咳払い。

 「・・・ククール」

 「な、なんだよ」

 「・・・・・・・・そういう、わけだ。それまで暫く、この家に厄介になる」

 「え」

 暫くって。え、えと。それは教会ができるまで、というコトか? ああ、そうか。教会。ソコに住み込むんだ。

 ・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・あー・・・。

 じわり、と。じわりじわり、と実感がわいてきた。そうか。居なくならないんだ。そのコトに、安堵の息を吐き出していた。

 今の兄貴の表情を見る限り、昨夜見た『記憶』は彼にとって悪いものではなかったのだろう。

 それがたまらなく嬉しい。遅すぎたけれど、やっと法皇様の想いが彼に通じたのかもしれない。





 それから暫くして教会が出来上がり、マルチェロもそっちへとうつり、兄貴が居るからとお預けくらっていたエイトとのいちゃいちゃも復活して。

 なんかもうなにもかもが幸せだな―――・・・とか思っていたんだけど。

 「ばか者っ! その資料はこっちへ運べと言っただろうがっ」

 「言ってねぇよっ! てか、なんでウチに運んでくるかな!?」

 「おまえの食事の世話があるからに決まっているだろうがっ! ほっとけばテキトーに作って食べてばかりいてっ!
 大体三日間保存食で過ごす、とかワインだけ、とかいうのがおかしーだろうがっ! キッチンがあるんだからちゃんと使えっ!」

 「しかたないだろっ! 一人じゃ食べる気がしないんだからっ! てーかエイトが帰ってくる日は、ちゃんと大量に作ってるしっ!」

 「その分量も問題がある、と言っているっ! どーして二人しか居ないのに、一週間分の食材が二日でなくなるっ!?
 私が作っていた間にはこんなコトはなかったぞ!?」

 「そりゃエイトもそれなりに自粛してただけで、あいつはもともと一人で十人分は食うんだよっ!」

 「妻の健康管理もできんダメ夫がぁぁぁっ! 私の義理の妹でもあるんだぞ!? 可愛い子供が産めなくなったらどうする!」

 「そんな心配いらないからっ! オレとエイトの子供なら、天使もはだしで逃げ出すくらい可愛いに決まってるからっ!」

 「そのわりにはなかなか授からないではないかっ! これでも楽しみにしているのだぞっ!」

 「あんたはどこの姑だぁぁぁぁっ! というか、あんたがいるとできねぇんだよっ!」

 ―――今では、ほぼ毎日のようにマルチェロが我が家にやってくる。

 それはもう、邪魔なくらいに。

 ・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・いや、嬉しいんだけどさ。やっぱりモノには限度があるわけで。というか、兄貴、子供楽しみにしててくれているのか。

 あ、やばい。なんか顔が笑ってしまう。バレたら「なにを笑っている!?」とか説教されるのは目に見えてる。どうしたものか。

 「ふぁぁ、なんの騒ぎ?」

 悩んでいると、夜勤明けのエイトがごしごしと目を擦って階段を下りてきた。まだ眠いのか、足元がフラフラしていて危なっかしい。

 「あ、いや、その」

 慌てるマルチェロに、オレはチャンスとばかりに笑みを深くした。

 「兄貴が、早く子供を見せろって騒いでたんだぜ」

 「え?」

 「なっ!」 

 動揺する兄貴ときょとんとするエイト。よーし、これで説教&ケンカをキャンセルだ。いまやマルチェロの頭の中では、エイトにどう言い繕うか
というコトでいっぱいのはず!

 と、思った刹那。エイトがふにゃりと笑顔を浮かべ、

 「大丈夫ですよー。そのうち、コウノトリさんがキャベツを運んできてくれますから。ソレまで待っててくださいね」

 『へ?』

 その言葉に、二人で間の抜けた声を出してしまった。いや・・・・・あの・・・・・・・エイトさん? もしかして、まだ、信じてましたかそれ。

 「・・・・ククール」

 「はい」

 「・・・・・どういうコトだか説明してもらおうか」

 振り向いたその顔は、鬼そのもので。

 「ちがっ・・・オレじゃなっ・・・・!」

 言い訳空しく、くびねっこ掴まれてずるずると運ばれてしまった。




 こうやって毎日いろんな騒ぎを起こしつつ、日々が過ぎていく。

 騒がしいし疲れたりするけれど、でも、そんな毎日が、実は―――愛しくて、楽しい。

 そんなコト、決して口にはしないけれど。

 エイトとの子供が生まれるまで、この騒ぎは続くんだろう。というか、生まれたあとにもいろいろとありそうだろうけど。

 それすらも、楽しみにしているなんて、やっぱり口が裂けても言えなかった。



 その後、説教の最中ににやけきった顔をしていたら、マルチェロにチョップされたのは・・・・まぁ、お約束、ということで。















 ひっぱったあげくに、グダグダな終わり方でいろいろと申し訳ありません(汗)

 このマルチェロさんは現在連載中のマル兄さんとはまた違う方です。

 連載中のマル兄さんは、いつかもしかしたら、出て来るかもしれません。



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