こちらはだいぶ遅くなってしまった三周年記念SSです。
実は、こちらの続きだったりします(笑)
のほほん夫婦の、後日談ですが、楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに、本の中身を知らなくても大丈夫です。
前編
「ただいま、エイト〜」
「おかえりなさい、ククール♪」
いつものやりとり。いつもの日常。シゴトが終わって、先にエイトが帰っているときには、こーやって出迎えてくれる。
ちなみにオレが先に帰っているときは、先に述べたセリフは逆になる。まぁそれはさておいて。
疲れた心を癒してくれる、愛しい妻の可愛らしい笑顔。でもっておかえりのキスをおでこにしたあとに、唇に。まさに至福。
これがあるからこそ、一日が乗越えられるんだよな。あとは寝るまで二人きり、のんびりだらだらと幸せの一時。
明日が休みなら言うことなし、なんだけど、残念なコトにオレは休みでエイトはシゴト。ちっ、新婚なんだからトロデのおっさんも気ィ遣っ
てくれよなー。
いやまぁ、一軒家をプレゼントしてくれた時点で、いろいろと感謝してもしたりないんだけどな。ちゃんと防音だし風呂はやたらに広いし。
「はい、エイトにお土産だよ」
「わぁい、ありがとうー! プリンだっ!」
「あとで食べような♪」
「うんっ。あ、僕もね、ククールに見せたいものがあるんだー」
大事そうにプリンを抱えて、にこにこしながらエイトが顔を上げる。
「うん? なんだい?」
「見るまでひみつ〜」
まるでクリスマスのときに、内緒のプレゼントを渡す子供のように楽しそうに笑う。なんだろう、なにを見せてくれるんだろう。
つられてオレまでわくわくしながらリビングの扉を開けて・・・・・・・・開けて・・・・・・・・あけ・・・・・・・・・
「ひぃいッ!?」
バタンッ!!
盛大に悲鳴を上げつつ、扉を勢いよく閉めた。
・・・・・・うん、よし。オレは起きている。そして至って正常。疲れているけど、幻を見るほどじゃない。
「あれ? どうしたの?」
オレの様子に、不思議そうにエイトが問いかけてくる。
ギギギィッ。と錆付いた機械仕掛けの人形のように首を動かして、隣に立つエイトを見つめた。
「エイトさん。なんだか今、ありえない物体があったような気がしたんですが」
「うん。昼間、拾ったの」
「拾ったんだ!?」
「子供の掘った落とし穴に落ちてたんだ。なんか、おなか空いてたみたいだから、お昼のサンドイッチをあげたんだー」
「・・・落ちてたんだ・・・・アレ・・・・」
そーか。現実か、アレは。残念ながら。
とりあえず、意を決してもう一度そろりと扉をあけてみる。リビングの中央・・・ソコにいたのは。
猿轡をかまされ、イスごとロープでぐるぐる巻きにされている―――マルチェロだった。
ごめん、なんかもう普通に頭痛い。というか、なんか泣けてきた。
「腹へって落とし穴に落ちて、あげくエイトに救助されたかと思えば、捕まったってオチかぁ・・・」
ぽつりと呟くと、憮然とした顔のまま、なんかうーうー唸ってる。外したほうが会話が成立するだろう、と手を伸ばそうとすると、エイトが待っ
たをかけてきた。
「一応、マホトーンかけて」
「そこまで!? てか、え? なに、兄貴ってば実は指名手配犯かなんかになってる!?」
「や、そういうワケじゃないんだけど。家の中で暴れられると困るから」
・・・・・・・て、コトは、ココに来るまでの間になにかあった、というコトでしょうか。そういやよく見たら、エイトの服、泥だらけだし。
「マ・・・マホトーン」
言われるまま呪文をかけてから、猿轡を外す。途端に、大きく息を吸い込んで―――
「エイト、貴様ぁぁぁぁっ!!! アレはなんだ、あれはぁぁぁっ!!」
うわあああああ、ものすげぇご立腹ー!! てーかなにしたエイトー!
「あれって・・・なにかしましたっけ?」
小首を傾げるエイトに、今にも青筋ぷち切れそうな勢いで、ガダガダとイスごと動きながら、
「目が合った瞬間に鳩尾に一発いれて気を失わせたのはドコの誰だ!?
オディロ院長が川の向こうで手を振っていたのが一瞬見えてしまったぞ!」
うわお。それはなんというか・・・・・貴重な体験デスネ。
「だってマルチェロさん、逃げようとするからしかたなく」
まぁなんと言うか・・・・エイトは笑いながら岩を持ち上げる、力持ちさんだからな。そりゃ手加減したとは言え、腹を空かせてぐったりしていた
人間にとっては、やばいだろう。うん、まぁ臨死体験くらいですんでよかったよな。
「いいわけあるかっ?!」
あれ。聞こえてた。気がつかないうちに言葉にしていたらしい。
「さてと。ごめんね、ククール。僕先に軽くシャワー浴びてくるよ。実はさっき帰ってきたばっかりで・・・ご飯、すぐに作るから」
「あ、ああ。悪いな」
「ん。そのあいだ、積もる話とかしててね。あ、定期的にマホトーンかけるの忘れないで。あと、ロープほど居たらダメだよ。
死に物狂いで逃げ出しちゃうから」
・・・・・・・・・院長。兄貴は猛獣かなにかでしょうか。
ああでも。背後でガルガルと唸って殺気を飛ばしているマルチェロは、エイトにそう思われても仕方がないわけで。
「・・・ま、なんというか・・・・・ひ、久しぶり?」
「ふんっ。会いたくはなかったがな」
それでも一応返事は返してくれるのに、ほっとする。・・・生きてて、くれたことにも。
「今まで、なにしてたんだよ」
「・・・・・・・・答える義務はないな」
「相変わらず偉そうだなぁ」
思わず苦笑がもれる。変わってなくてほっとするというかなんというか・・・。
「貴様こそ、こんなトコでなにをしている。というか、ココはどこだ」
捕まっててわかんなかったんかい。
「トロデーンだよ。覚えてるだろ? エイトはトロデーンの近衛兵。あの化け物王様も、今は元の姿に戻って、元気に国を治めてるよ」
言うと、小さくああ、と頷いた。そして少しの間をおいて、
「で、貴様はマイエラに帰らず、ココでなにをしている?」
「帰るも何も・・・、いや、まぁいいけど。オレは、王様のコネで、城で働かさせてもらってるんだ。ちなみに、ココはエイトとオレの家」
「? 二人で住んでいるのか? 彼と。随分と仲がいいんだな」
・・・あー・・・。そーいやマルチェロはエイトが『男』だと思ってたんだっけ。
「仲がいいって言うか、ラブラブ新婚生活ってヤツだよ」
とりあえずそういえば、兄貴の顔が一瞬引きつる。けれどすぐにいつもの憮然とした顔に戻ると、
「・・・そうではないかと思っていたが・・・・・・・やはり、男色のけがあったか・・・」
「ちがぁうっ! エイトは、女だって!」
即座に突っ込みつつ、訂正するが、はんっと鼻で笑われた。
「あんな女性がこの世にいるか」
すいません、オレも最初はそう思ってました。
「ククール。私はなにも同性愛がいけない、と言っているのではない。愛し合うのは、結構なことだ。
だがな、そういうウソをついてまで、この私を欺こうとするなど、神が許しても私が許さん」
うあこれだから追い詰められた人間不信者はっ。つーか、兄貴、ホモおっけーですかそうですか。
それから何度かエイトが女だと言ってやったが聞く耳持たず。うん、まぁ、出会い頭に鳩尾に一発喰らってれば、仕方ないとも思えるが。
「ククール、マルチェロさーん、ご飯だけど・・・、どうしたの?」
扉を開けてエイトが顔を出すが、険悪な空気に気がついたのか首を傾げてオレたちを見てくる。
「エイト君」
「はい? なんでしょうか」
「君はこの愚弟と一緒に住んでいるようだが、世話が大変だろう? 女を連れ込んだりと、僧侶にあるまじき行為をしていないだろうか。
いつでも見限ってくれてかまわんぞ」
「? 世話っていうか・・・・僕たち、ラブラブ新婚生活中ですから、大変じゃないですよ?」
びしりっ。
エイトの言葉に、マルチェロが凍りつく。
ややあって。
「君は騙されているッ!」
「ええっ!?」
イスに縛られたまま器用にがこがこ立ち上がろうとする。てか言うに事欠いて騙されてるってをい。
「いつからだっ、いつからこんな不浄な生活を!? というか、もしかして二人揃って私を騙そうと!?」
「あーもー! ちょっと落ち着けバカ兄貴ッ! それとエイトは女だって何度言わせたら理解するんだよっ!」
「え? 僕、男だって思われてる?」
驚いたようにエイトが声を上げて、やっと事態を理解してくれたようだ。少し考えるように瞳を伏せていたが、すぐにぽんっと手を打つと、
「マルチェロさん」
「なん・・・、・・・ッ!?」
ロープを解いたとかと思うと、その手を取って自分の胸へと押し付け―――えええええええええッ!?
「ちょっ、おまっ、なにしてンのぉぉぉぉぉっ!?」
慌ててその手を叩き落として、エイトを自分へとひきよせた。ちなみにマルチェロは硬直している。
「このほうが早いかなぁって思って」
「ダメでしょっ! エイトの体はオレしか触ったらダメなのっ!! 兄貴も―――・・・・・」
叫びつつ、兄貴を見れば、硬直したままの体勢で。ゆっくり、ゆっくりと体を傾けていき。
そのまま、どさりと倒れてしまった。
「・・・・・・・・それでどうして、私はまた縛られているのだろうか」
気絶しているマルチェロをキッチンへと運び、再び逃げられないようにロープで縛り付けたのは、エイトだけど。
流石にソコまでしなくても、と思うのだが、何故だかエイトは「だめなの」と譲らない。鳩尾にいれたのを、実は気にしているのだろうか。
ぶつぶつと文句を言うマルチェロの前に、エイトはあたたかな食事を置いて、
「どうぞ」
「・・・・・・・気持ちはありがたい。が、いらん」
「なんでですか? 美味しいですよ」
「腹など減っていない!」
ぐぎゅるるるるるるる。
力んで叫んだのがいけなかったのか、マルチェロの腹が盛大に鳴る。うん、はらへりですね。
エイトも一瞬目を丸くしたものの、すぐににっこりと笑うと、
「そういえば、おなか空きすぎてて、落とし穴にはまったんでしたよね。サンドイッチ、足らなかったみたいで、ごめんなさい」
言われて。ぐうの音も出ないのか、無言でがくりと頭を下げてふるふると震えている。
「・・・・・・・食べろ、と言われても、手が、動かないだろう」
地を這うような、低い声。怒ってる。これは相当怒ってる。けれどエイトは気にしていないのか、「あ、腕も縛ったんだっけ」と納得して。
「はい、マルチェロさん。あーん、して?」
「するかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
スプーンですくった飯を口元に持っていき笑うエイト。そしてきれるマルチェロ。オレも短時間の間に慣れたなぁ。
「え? あ、そっか。やっぱり他人だと、緊張しますよねっ。はいククール」
「兄貴。あーん」
「なんでそーなるっ!? というか、ロープを解いて食べさせるという発想はないのか!?」
ふーふー冷ます、というオプションまでつけてやったのに、再び切れるマルチェロ。むぅ。贅沢な。
「一人で! 頼むから一人で食べさせてくれ!」
切実な言葉に、エイトは真顔で見つめ、
「逃げたりしませんか?」
「しないっ」
「逃げたりしたら、全力で追いかけますよ」
「う゛。わ・・・・わかっている」
やっぱり鳩尾一発が効いているのか。逃げ出したりしたらそれはそれはもっと恐ろしいものを味わう、と本能が悟ったのかもしれない。
必死になってこくこく頷くマルチェロに、ちょっぴり涙を誘われつつ、マホトーンかけて、ロープを解く。
逃げる気力なんてものはとっくになくなっているようで、宣言どおり大人しく出された食事を食べ始めた。
そしてデザートのプリンを食べ終える頃には、すっかりと寛いでしまっていた。意外に従順すんの早いな。
「・・・あ、マルチェロさん。お風呂どうぞ。寝室はその間に用意しておきますから」
「いや・・・私は」
「ほっぺとか髪の毛とか、泥だらけですよ。そのまま寝たりしませんよね?」
「・・・・・風呂はどこだろうか」
「こっちですよー」
にこにこと笑顔でおしていくエイトに逆らえず、渋々とついていくマルチェロ。なんてか・・・・初めて見るなぁ、ああいう兄貴。
暫くして戻ってきたエイトは、今度は客室へと向かう。帰ってくると今度はオレのパジャマを持って風呂場へ。
ほどなくさっぱりして戻ってきたマルチェロは、どこか居心地悪そうにしつつも、ソファに座って。
・・・流れる沈黙に耐え切れず、話しかけてみることにした。
「なー、兄貴」
「・・・なんだ」
「あんた、これからどーすンの? また、あてのない旅とかするの?」
今までなにしていた、という問いには答えてくれなかったけれど。これくらいなら答えてくれてもいいと思うんだ。
「関係ないだろう」
やっぱりそういう可愛くない返事するし。
「オレの土産のプリン食って、そーいう言い方はないと思うんだけど〜」
「・・・・う」
「そのパジャマもオレのだし」
「・・・・うう」
「オレの奥さんの胸まで触ったし」
「それはエイトが勝手に!」
思い出したのか、顔を赤らめて叫ぶマルチェロに、思わず噴出して笑ってしまった。
「何故笑うっ!?」
「や、悪い悪い。なんか、楽しいって言うか・・・嬉しいっていうか」
打てば響く会話が、楽しい。いつも一方通行の話し方ばかりだったから。
「意味が分からん」
「あー、うん。いいんだ、気にしないで」
言ったら話してくれなくなりそうだし。と、タイミングよくエイトが顔を出し、寝室の用意が出来たと、呼びに来た。
一瞬迷った表情を浮かべたものの、大人しくついていく。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
戻ってこない。なんだ、遅くないか? 案内するだけだろ? なんでこんなに時間がかかってるんだ?
はっ、まさかエイトの可愛さにマルチェロが血迷ったとか・・・・!
考えて。
それはないな、とすぐに一蹴する。胸触っただけで顔を真っ赤にして気絶するようなマルチェロに、そんな根性あるわけない。
というかそれ以前に、エイトに鳩尾に一発いれられた恐怖のほうが強いだろうし。さっきまで男だと思いこんでいたくらいだし。
うん、大丈夫。間違いは絶対に起きない。
じゃあなんで遅いんだろう。ちょっとだけ不安になってきて、様子を見に行こうかと思った頃、やっとエイトだけが戻ってきた。
「マルチェロさん、暫く泊まる事になったよ」
「え!?」
にこにこと笑顔で告げられて、間の抜けた声をあげてしまった。いやだって、あのマルチェロが、そんな厚意を素直に受け取るだろうか。
そう約束しておいて、明日の朝には寝室はもぬけの殻、というオチが待っていそうな気がする。
だけど意外なことに。
朝、目が覚めてキッチンへと向かえば、「遅いぞ。たるんでいるな」という罵声を飛ばしつつ、白いのエプロンをつけて朝食の用意をして
いるマルチェロの姿がソコにあった。
・・・・・思わず、「ヒィイッ!!」と悲鳴を上げて、寝室へと戻ってしまったオレを、誰が責めることが出来ようか。
ともあれ。
そうして、おかしな生活は幕をあげたのだった。
微妙に終わらなかったです(倒)
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