くしゃん、と可愛らしいくしゃみに振り返れば、ゼシカが二度目のくしゃみをしているところで。

 鼻を啜るゼシカに近寄って、断ってから額やに首筋に手を当てる。それから口をあけてもらって、確信。

 「風邪、だな。早めに休んだほうがいい」

 「なに言ってるのよ。大丈夫だってば。先を急ぎましょう、エイト」

 オレの言葉を無視して進もうとするゼシカの腕をエイトが引いて、額に手を当てる。

 「・・・いや、村に戻ろう。熱がある」

 「ちょっ・・・、これくらい大丈夫だってばっ」

 「ダメだ。風邪は万病の元と言うだろう?」

 「でも」

 「ゼシカ」

 問答無用、とばかりにエイトが彼女を睨めつけて名前を呼ぶ。と、観念したのか小さく「わかったわ」と呟いた。

 それを聞いて安心したのか、おっさんに事情を説明しに馬車のほうへと走っていく。

 どうやらトロデ王はあっさり了承してくれたようで、手際よくルーラで少し前にいた村まで飛ぶコトになった。

 村には女医さんがいて(と言ってもおばちゃんだ)エイトが呼びにいくと、すぐに駆けつけてくれた。

 ゼシカはエイトにまかせる。・・・というか、ゼシカに「あんたは部屋に入ってこないで」と言われているので、見舞いにすら行
けないワケなんだが。それはともかく。

 ぽつぽつと民家があるだけの寂しい村には、コレと言った娯楽施設がない。唯一あるとしたら、宿屋の一階に作られた食堂
兼酒場だけだろう。

 ヒマなのでちょっと覗いてみたが、まだ夕食には早いからか客はいなかった。

 ・・・・うーん・・・。これは・・・ヒマ潰しにもならなさそうだな。

 仕方なく部屋に戻ってくると、トーポにチーズを与えているエイトの姿。

 ・・・・部屋を間違えたのかと、扉を閉めようとしたら、エイトから「ドコに行く」と声をかけられた。

 「いや、部屋を間違えたかなって・・・」

 「間違っていない。ココは君と私の部屋だ」

 「あ、そうなんだ。・・・って、えっ? 同室?!」

 驚いて彼女を見れば、申し訳なさそうな顔をされてしまった。

 「ゼシカはゆっくり休んでもらおうと、一人部屋にしたんだが・・・・。その、予算の問題で・・・・暫く同室に・・・。やはり迷惑か?」

 「い・・・いやいや、そういうワケじゃ・・・」

 というか、そんな顔でそんなふうに言われると、断りにくいって言うか。とりあえず部屋に入って、開いているベッドに腰掛ける。

 この村じゃ、女の子を部屋に連れ込む、なんて無理だろうし。迷惑ってコトはない。

 「ゼシカの様子は?」

 「薬が効いているようで、よく眠っている。医師が三日も眠ればよくなるだろう、と言っていた」

 「そっか。そりゃ良かった。・・・にしても、エイトと同室って久しぶりだなー」

 いつもは大体エイトはゼシカと同室が多いし。・・・理由は推して知るべし。

 予算の都合や宿屋の空き部屋の関係とかで、二部屋しか取れなかったときには、オレとエイト、ゼシカとヤンガス、という組
み合わせになる。

 理由は簡単。どんなにヤンガスのイビキが響きまくろうが、ゼシカはラリホーが使えるので、さっさと眠るコトができるからッ!
 
 ・・・・・・・・ちなみに、オレと同室になろうと言ったら、ムチを振り振り断られた。

 ともかく、そういうコトがないとエイトとは同室にならない。

 今度は剣の手入れを始めたエイトをぼんやり見つめながら、そんなコトを考えていると、ふと目が合った。

 「どうした? 私の顔になにかついているか」

 「へ? あぁ。いや、ヒマだなぁって」

 「ヒマなら剣の手入れをしたらどうだ? ソレがイヤなら・・・、そうだ、手合わせでもするか」

 腰を浮かそうとするエイトに、慌てて待ったをかける。

 できればそーいう疲れるようなコトはしたくない。どうせ体力を使うなら、女の子相手のほうがいいし。

 必死に考えを巡らせていると、ふとポケットに入れっぱなしだったトランプの存在を思い出す。

 「そーだそーだ、ポーカーの相手、してくれない?」

 「・・・ポーカー・・・? やり方がわからな」

 「教えるから。よし、じゃあ始めようか」

 強引に言葉を遮って、ポーカーの説明を始める。だいだいのルールを覚えると、カードを配って、まず練習。

 何度かソレを繰り返すと、それなりに役が出せるようになった。・・・うぅん。エイトって意外にギャンブル運あるのかも。

 「・・・なかなか面白いな。君がハマるのも頷ける」

 遊び終えたカードを揃えて、もう一度切っているとエイトが呟く。

 「だろ?」

 どうやらポーカーの面白さにエイトも目覚めたらしい。心なしか楽しそうな顔をしている。

 「な、エイト。そろそろなにか賭けない?」

 「なに?」

 あ、すげぇ怖い目。

 だけど、このまま延々とポーカーの練習をしてるってのはつまらない。駆け引きってのは、やっぱり大事だろう。

 「大丈夫だって。金とかモノじゃねぇからさ。そうだなぁ。いつぞやのハゴイタリベンジってコトで。
 勝った方の言うことを聞くってのはどうよ」

 あの時は、なんだかなし崩しに終わったような気もするし。ああいう中途半端なのは、ちょっと気持ち悪いしな。

 「む・・・。しかし、私は」

 「おや、まだまだポーカーではこのオレ様には勝てないってか。そっかそっか、そーだよな。
 悪い、この話はなかったコトに」

 「誰もそんなコトは言っていないっ。良いだろう、勝負だ!」

 よっしゃ。負けず嫌いなエイトのコト。こう言えばノッてくれるだろうと思ったんだ。オレも大分こいつの扱いに慣れてきたな。

 「んじゃま、真剣勝負ってコトで」

 「ああ」

 カードを切って、五枚配る。手元の札を確認して、いつものように笑みを浮かべる。対してエイトは真剣そのもの、と言った
具合で、穴が開きそうなほど、カードを睨みつけている。

 ・・・・・・こういうゲームのときは、相手にこっちの心理状態を悟られないようにするワケだが・・・。

 エイトのあの顔だと、なんかひたすらピンチっぽい人に見える。でも、さっきの練習の時もそうだったが、余裕状態でも、常
にあの顔なんだよなー・・・。

 うぅん。ちょっと読めないな。エイトはオレに勝ったらなんて言って来るんだろう。

 ソレはソレで楽しみだよな、と思いつつ、二枚ドロー。エイトは三枚ドロー。

 そして勝負の結果―――










 「なにが望みだ」

 まるで判決を待つ囚人のような表情で、エイトがじっとオレを見据えてくる。

 ポーカーの結果は、オレの勝ちだった。ちなみにオレの役はスリーカード。エイトはワンペア。

 しょぼいとか言うな。一応、あんまり強いカードで勝ったら悪いかな、と気を遣ったんだ、これでも。

 ともあれ、それでも勝ってしまったので、オレはにやりと笑ってエイトの隣に座る。

 ソレだけで、エイトが体を強張らせたのがわかった。・・・なんでそんなにビクついてるんだろう。

 もしかして、無理難題をふっかけられる、と思っているんだろうか?

 ・・・・ああ、でも、エイトにしたら確かに無理なコトかもしれないな、今からオレが言おうとしているコトは。

 「エイト」

 「な、なんだ」

 「―――笑え」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 聞き取れなかったのか、エイトが柳眉を寄せて聞き返してきた。なので、今度は更に追加注文もしてみる。

 「笑え。とびっきりキュートに、かつ清楚で艶やかに色っぽく微笑め」

 「無理なコト言うなっ?! なんだそれは、統一性がまったくないだろうっ!
 だいたい清楚と色っぽくってのは相反するもので、常に対極にあるものだろうがっ!」

 言い終えて、肩で息をするエイトに、オレはにっこりと微笑んで、

 「じゃあその中からドレか一つ選んでくれていいから、とにかく笑って?」

 「おかしくもないのに笑えるかっ! なんなんだ、君はっ。私をからかっているのかっ」

 「ンなコトないって。ただ、エイトに笑って欲しいなって思っただけ」

 宥めるように肩を軽く叩いて言うと、彼女は腑に落ちないといった顔をする。

 まぁ確かに、いきなりンなコト言われても笑えないよなー。演技のプロならともかく。

 「・・・ククール。一ついいか」

 「なに?」

 「何故、そんな変なコトを?」

 「いやだって。おまえが笑ってるのあんまり見たコトないから。見たいなーって思って」

 「そ・・・・・そんなに笑っていないか・・・・・・・・私は・・・・」

 「うーん・・・。たまに、うっすらと笑っているような気もするけど・・・。ホントにたまにだし・・・」

 初めて見たのは、ハゴイタ勝負のときだったか。あれ以来、エイトが微笑んでいるトコは見たコトがない。

 あの時の微笑が、実を言えばちょっと可愛かった。不覚にも魅入ってしまうくらいに。

 もう一度見てみたい、と前々から思っていたものの、コレがなかなか笑わない。薄く微笑んだりするものの、あのときの
笑顔とは程遠い。

 「・・・・無理そうなら、やめて別のを言おうか?」

 こんなコトで簡単に笑ってくれるワケないとは思ってるし。我ながら無理だろうなってのは分かってたし。

 ただ、ちょっと言ってみたかっただけで。

 「・・・・・・・」

 「ん?」

 「・・・・・・ちなみに、他の望みは・・・・・?」
 
 そういえば考えてなかったな。なにがいいだろう? 次の町に着いたら、三日ほど休みたい、とか?

 でもそうするとゼシカが五月蝿そうだし、賭けのコトがばれたら、もっと厄介なコトになるだろう。

 と、なると。

 「やっぱり、笑ってほしいかなぁ」

 「そ・・・・そうか」

 言ってしまったオレも、言われてしまったエイトも、お互い難しい顔をして、唸ってしまう。

 「あ、そうだ。じゃあこうしよう」

 「な、なんだ?」

 「次の町についたら、二人で出かけないか?」

 「・・・・・え・・・ええっ!?」

 提案に、エイトが目を開く。なにもそんなに驚かなくても。

 「一緒に遊び倒せば、面白いコトがあるかもしれないだろ? そしたら、笑顔の一つや二つ、簡単に出てくるかもしれないし」

 いやまぁ、そんなに簡単に出てくるようなら、こんな二人で唸っていたりしないんだけど。

 「い・・・一緒・・・に? 二人、でか・・・?」

 エイトの頬がうっすらと赤く染まる。もしかして、結構動揺してるンだろうか。

 「二人きりがイヤなら、ゼシカ誘う?」

 「いっ・・・いや、大丈夫だ。問題ない」

 「そう? じゃ、予定空けといて。・・・約束な」

 「わ、わかった」

 こくこく必死に頷くエイトに苦笑する。ホント、妙にマジメで頑固で負けず嫌い。

 でも最近、ちょっとだけ。ホントにちょっとだけだけど。

 そういうトコがちょっと可愛くていいかもしれない、と思い始めている自分がいる。

















 エイト:二人きり=デートになるんだろうかと、ドキドキわたわた。

 ククール:二人きり=いつものコトなのでまったく気にしてない。

 

 ものの見事にすれ違い。ちなみに続きませんごめんなさい。


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