この町に来る少し前から降り始めた雨は、夜になった途端豪雨へと変わり、止む気配がないまま、五日が経っていた。
今の時期は最低一週間は雨が降り続けるからねぇ、とは宿屋のおかみさんのお言葉。
人の良いらしいおかみは、馬姫様とトロデ王を馬宿に入れてくれた。その時、偶然トロデ王の姿を見られたが、彼女は驚いた
だけで豪快に笑い飛ばしていた。
長い間いろんな旅人を見ていたけど、こんなお客は初めてだ、とまた豪快に笑いつつ、まぁゆっくりしていきなよ、と言ってく
れたのが非常に有難い。
そして今日。
降り続けた雨は、やっと小雨になって来た。このぶんなら、近いうちに晴れるかもしれない。
読み終えた本をテーブルに置いて、息抜きをするために背伸び。
「さすがに、体がなまりそうだなぁ」
ちなみに同室のエイトは、すっかり退屈していたらしく、宿屋の子供達に誘われて遊びに行ってしまった。
五日間大人しくしていたから、相当エネルギー有り余っているだろう。
・・・・とはいえ・・・。この雨の中、駆け回るような激しい遊びが出来るはずもないだろうし・・・。
いったいどんな遊びをしているのやら。
次の本を取ろうとカバンに手を伸ばそうとしたとき、扉がノックされる。返事をすると、満面の笑みのエイトが―――・・・・・。
「ただいまぁ」
「まず風呂に入れぇぇぇっ!」
満面の笑みで、ドロにまみれまくったエイトを風呂場に放り込み、脱いだ服は洗い場へ持っていく。
ちなみに、宿屋の一階でも似たような光景が繰り広げられていた。
ああああ・・・・・・・・。そーだよなぁ。雨の日に遊び倒したらこーなるよなぁ・・・。
風邪をひかなきゃいいんだけど。あったかいミルクでもいれてもらうか?
ドロを完全に落として、部屋に戻って部屋に干す。・・・・って・・・・。
エイト、風呂長いな。珍しいこともあるもんだ。普段はカラスの行水だっていうのに。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!?
まさかのぼせてるンじゃないかっ!?
「エイト!? おいっ!」
慌てて扉をノックすると、扉が開いて困ったような顔をしていたエイトが出てきた。その体はタオル一枚。
って、おい。そんなはしたない格好で出てくんなっ!
「・・・・着替えがないんだけど、どーしよう?」
「あ」
そーいえば、ココのところ天気が悪くて、洗ったモノがまだ半乾きだったっけ?
とりあえず着替えを探すものの、オレのもほとんど洗ってたから、あるのはシャツ一枚。
「・・・・コレでいいか?」
「うんっ。ありがとー!」
受け取って風呂場へと戻っていく。うん、ココで着替えようとしないあたりは、オレの教育の賜物だよな。
ほどなく、エイトが戻ってくると、もう一度お礼を言われる。
・・・・・・・・・・・・・・・う。
「やっぱりククールの大きいなぁ・・・。僕ももっとおっきくなりたいな〜」
ぶつぶつ言いつつ腕をまくるその姿に、ちょっと眩暈。
かっ・・・・可愛い・・・・・・っ!! やばいッ! 思ったより、そーとーやばいっ!
シャツの裾から覗く太ももが・・・・!
「ククール!? 急に壁に向かって拳を繰り出して、なにしてるのツ!? 手、痛くなるよっ!」
「ハァ、ハァ・・・・・いやその、落ち着こうかなぁって・・・。」
うう、危うく理性がとぶトコだった。・・・・うん、だいぶ落ち着いた。
冷静に考えたら、あのシャツの下はどうせ男モノの下着か、魔物が落としていったステテコパンツかだろうし。
よし、ソレを考えたらそんな気まったくなくなった。
「それにしても、いったいなにをしたらあんなドロだらけになるんだ?」
ベッドに腰掛けつつ、そう問えば、エイトは「あのね」と声を弾ませ、
「最初はね、みんなで散歩してたんだ。そしたらおっきな水溜りがあってね。
一番にレイ君が靴でばしゃってやったら、コレが意外に楽しくて。でね、僕もついついばしゃっと!
そのあと、誰が一番おっきな水溜りをみつけられるかって、競争になって、それであと、ちょっと雨がやんだから、ドロでいろ
んなモノ作ったんだ。シフォンちゃんが作ったドロの兎がすっごくかわいかったんだ」
「それはそれは随分楽しそうですネ。・・・・ついでにエイトはなに作ったんだ?」
「バブルスライム」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それ作った言っていいのか・・・・?」
「? でもけっこういい出来だったよ? みんなも褒めてくれたし」
「そうですか・・・・」
周りのお子様が微妙にオトナなのか、それともエイトがお子様達と同レベルなのか・・・・。
「ま・・・・、楽しかったんなら、なによりです」
「うん。今度はククールも一緒に遊ぼうね〜」
「・・・・・・・・・・・・・気が向いたら、な」
ドロだらけになるような、デートはちょっと勘弁してもらいたい。とは言え、雨の日は屋台もほとんどやってないし。
・・・・・・・・エイト対策に、雨の日デートを考えるとなると・・・・・時間無制限一本勝負なバイキングとか?
って、ダメだ。最近どうもエイトにあわせて、ものを考えるようになっているような・・・・!
「・・・ククール? 頭抱えてどうしたの?」
「いや・・・・・ちょっといろいろ眩暈が・・・」
「大丈夫? 雨ばっかりだから具合悪くなっちゃったのかも・・・」
「だ、大丈夫。具合は悪くないから。気にすんな。というか、エイトのほうこそ、雨だとつまんないだろ?
外で遊べないし、旅は続けられないし、ジメジメ鬱陶しいし」
じっとしているのが苦手なエイトだから、部屋で大人しく読書ってのも辛いだろう。
時々、頑張って魔道書に目を通しているときもあるけど。
「うーん。でも、雨の日もいいとこあるよ?」
「いいとこ?」
「たとえば、今日みたいに遊んだりできるでしょ。それから、てるてるボウズも雨の日にしか作れないし、外の風景も、いつも
とちょっと違って見えたりして、とても素敵なんだよ。あと、雨が上がったら虹がでるかもって考えれば、ワクワクする。
あとねー・・・・」
指折り数えつつ、いいとこを教えてくれるエイトに、苦笑する。
「? どうしたの?」
「いや、なんていうか。それは楽しそうだなって思ってさ」
「でしょ? 雨の日も悪くないよね。・・・・ただ、洗濯物が乾かないのは困るけど・・・」
呟いて、シャツの裾を摘む。そう言えば、昔小間使いだった頃、雨で洗濯物が乾かなくて困るって話を聞いたことがあっ
たっけ。
「あ」
「どうした?」
「この格好じゃごはん食べにいけれないや。陛下と姫にも、運べないし・・・。どうしよう?」
「あー・・・。部屋に運んできてやるから、安心しろ。おっさんのも、女将に頼んどく」
いついかなるときでも、飯の心配だけはかかさないのな。
「いいの? ありがとう!」
「どういたしまして」
「流石に、下着もつけてないのはまずいもんねぇ」
「そーだなぁ。・・・・・・・・・て・・・えええええええええ!?」
はいてないのかっ、ソレ!
「だって乾いてないんだもん」
「裾をヒラヒラさせるなぁっ! 襲われたいのかおまえはっ!」
思わずシーツをエイトに被らせる。ううう。心臓に悪すぎるっ。
この後。
あまりのエイトの無防備っぷりに理性が崩壊する前に、服屋に出かけたのは言うまでもない。
ステテコパンツは、ヤンガスがダンスのために全部持って行ったようです。
コレあんまりほのぼのじゃない・・・(笑)
次は私エイトさんの出番です。
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