「ガアァァァァァァァアア!!」

 唐突に扉が開き、雄叫びを上げながらゾンビが飛び出してくる。その気合の入った演技は、普通の少女ならば驚き、悲鳴を
あげ、涙するだろう。

 ただ、残念なことに、今ゾンビが出会った少女はあんまり普通ではなかった。

 「うわぁ、本物みたいだっ。すごいなぁ」

 瞳を輝かせてじぃっとゾンビを見つめる。予想外の行動に、ゾンビは動揺する。が、すぐに自分の仕事を思い出したのか、
少女に向かって手を振り上げ、再び威嚇の声を上げた。

 が。

 「ねぇ、ククール。ココの部屋は寝室みたいだよ」

 ゾンビの出てきた扉の奥を照らしつつ、そう言って微笑む。あまりのスルーっぷりに、ゾンビが動きを止めて、助けを求めるよ
うに男を見上げる。

 が、男はふぃっと視線を逸らすと少女の手を取った。

 「・・・・・・・・・・そう? じゃ、こっちかな。行くぞ、エイト」

 「うん。それじゃゾンビさん。頑張ってね!」

 少女は項垂れるゾンビに励ましの言葉をかけて、男と手を繋ぐと歩き出す。

 ソレを見送りつつ、自分の立ち位置に戻ったゾンビは、今出会った二人組みが優勝者になるかもしれないなぁ、と、心の裡
で呟いた。

 







                             アレ
 


                                                      







 ギィ・・・ギィィィィィィィィィィィ・・・・・

 扉を開くと、今度はやたらに広い部屋に出た。辺りは相変わらず暗く、隙間から微かに星の光が差し込んでいる。

 部屋の奥にはピアノが置いてあった。近寄って照らせば埃だらけで、本来は黒いはずなのにほとんど白くなっている。

 「この中とかにないかなぁ」

 「いや、違うな。ピアノに誰も触れた跡がないぞ? つか、触るなよ。手、汚れる」

 「そっか。じゃあ、どこかなぁ」

 きょろきょろと辺りを見渡せば、壊れかけた石像や、何故か上から絵の具でぐちゃぐちゃに塗られている絵画が飾ってある。

 「・・・ずいぶん酷ぇ有様だな。住んでたっていう盗賊の仕業か? あ、蜘蛛の巣まで・・・。こりゃ価値なんてないだろうな・・・」

 ククール自身、あまりそういう代物には興味がないが、それでもココまで壊れているとさすがに哀れだと思ってしまう。

 このピアノも。本来なら素晴らしい音色を奏でるはずだ。それなのに、こんなになるまで放っておかれたのなら、その音は―――

 そこまで考えて背後のピアノを振り返ったとき。

 ・・・ポロン・・・・ポーン・・・・・ポン・・・

 随分と調子の外れた音が響いてきた。

 「・・・・・・・・・・・・・・エイト。いま、触ったか。ピアノ」

 「ううん。だってククールが触るなって言ったじゃない。・・・・・ん? でも今なったよね?」

 小首を傾げてピアノに近づこうとするエイトの腕を、慌てて掴んで止める。

 「・・・た、たぶん、仕掛けだろ。オレ達を怖がらせるための。それよりもさっさと二つ目の『宝』を見つけよう」

 「そうだね。ええっと・・・あの鏡台の引き出しとかはどうかな」

 ぱたぱたと近寄って、引き出しをあけると物色し始めるエイトに、ククールは苦笑する。

 「エイト、さっきだって宝箱に入ってたんだから、そんなトコにはいっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「? どうしたの?」

 途中で口を噤んでしまったククールを、エイトが振り返る。見れば、彼は真っ青な顔で後ろを振り返り、なにかを探していた。

 「ククール?」

 「いっ・・・・、今っ、鏡になんか白いのがっ!」

 「しろいの?」

 言って鏡を見直すも、映っているのは自分とククールの姿のみ。

 「しろいの、ないけど・・・」

 首を傾げるエイトに、ククールは深呼吸をしてから鏡を覗き込んだ。が、とくにコレと言ってなんの変化もない。

 「・・・・・。確かに、オレの背後を白いなにかがふわっと・・・・」

 気配には人より敏感な性質である。脅かし役をしているのは、町の人、つまりは気配の消し方も知らぬ素人である。

 そんな人に背後を取られるとは、考えにくい。

 ―――それとも化け物役の『プロ』とか雇っているんだろうか。

 そう呟けば、エイトは期待に満ちた目であたりを伺う。が、やはりなんの気配もつかめない。

 「脅かし役の人、すっごく頑張ってるンだね」

 見てみたかったな、と笑いながら、再び『宝』を探してあちこちひっくり返す。

 「そ・・・、そーだよな・・・・・・・脅かし役、だよな・・・・」

 エイトの言葉に、きっと天井からシーツかなにかを提げたんだろう。そう思い、視線を上げて―――再び硬直。

 「あ、あった! クローゼットの中に宝箱! ほら、青いガラス玉!」

 その言葉に、しかしククールは反応せず、見入るように天井を見上げている。なんだろう、と視線を追い―――

 「わぁ、すごいッ。どーやってるンだろうね?」
 
 嬉々としたエイトの声に、我に返ったククールが彼女の腕を掴んで一目散に走り出す!

 「うわあぁ、ど、どうしたの!?」

 「どどどどっ、どーしたもこーしたもっ! さすがにアレはビビるだろう普通っ!」

 彼らが目撃したものは、天井に逆さまにへばりつきつつ、寂しげ・・・というよりも恨めしげに見つめてくる女の姿。

 しかも何故か血みどろ。コレで驚かなくてナニで驚けというのだろう。

 「ロープで支えてたのかなぁ。でも、僕たちが上見なくて気がつかなかったら、あの人、ちょっぴり寂しいよね。
 気がつけてよかったね」

 「よくねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 絶叫しつつ廊下を駆け抜け、脅し役の骸骨にぶつかりつつ一階に下りる。本音を言えば、このままさっさと屋敷から出て行
きたかったが、そんなコトをしたらゼシカに睨まれるだけではすまないだろう。
 
 仕方なく、地下へと続く階段を探して、地下へと降りる。その間も脅し役のゾンビやガイコツに出会ったが、さっきの女に比
べれば、天と地ほどの差がある。

 アレに比べたら、コレは幼児のお遊戯会、といったところか。

 ともあれ、地下室目指して早足で駆ければ―――

 『来ないでぇぇぇぇ・・・・・』

 「ひうわあぁぁぁっ!?」

 いきなり自分の目の前にぶらりと下がってきた女に、ククールが驚愕の悲鳴を上げた。真横にいたエイトは、その声に驚い
たらしく、目を白黒させている。

 『引き返してぇぇぇぇ』

 「にににに、にふらむっ!! しゃなくー!!」

 思わず使えないはずの呪文を口走る。
 
 「わぁ、また逆さまだ。すごいですねー」
 
 パニくるククールの真横で、のほほんと感動しているエイトに、ぶら下がった女は戸惑ったような顔をしつつ、

 『引き返してぇぇぇぇ』

 「どうやってるのかなぁ。ロープとか見えないよねぇ。あ、そろそろ行かないと」

 『いやあの・・・軽くスルーされると悲しいんですが・・・止まってくれませんか、とりあえず・・・』

 「? でも進まないとクリアできないんですよね? コレ」

 『そうらしいですね。でも・・・私、関係者じゃないんで・・・』

 その言葉に、エイトは首を傾げる。ククールも落ち着きを取り戻したのか、「どういう意味だ」と女を睨みつけた。

 と、しゅたん、と実に身軽に体を一回転させて女が天井から降りてくる。ぱっと見れば美人なのだが、その顔色は青く、ドレ
スはボロボロで、あちこちどす黒い赤で染まっている。そして一番不可解なのは、その体が透けているコトだ。

 どう見ても、生きている人間には見えない。流石にククールも一歩引く。

 『あの、実は私、ココに住み着いているゴーストなんですけど・・・・』

 宣言に、ククールは更に青ざめ、エイトは新しい玩具を見つけた子供のように、瞳を輝かせる。

 『と、いいますか・・・強盗に襲われて惨殺した家族の、長女が私なんですが・・・。
 そのぉ、ココで肝試しとかされるのって、迷惑なんですよねぇ』

 淡々と語る女に、エイトはそうなの? とばかりにククールを見上げる。

 「そ・・・そんなコト言われても・・・。オレ達はただの参加者だし」

 『でも・・・。コレ以上進まれて、アレが目を覚ましたら・・・・屋敷を壊されちゃいますし・・・・・・・。
 住むトコが無くなると・・・私たち自縛霊なんで、ものすごく困るんですけど・・・・。
 他の人たちはともかく、あなたたち全然リタイアしてくれないし・・・。もうしかたないから、私が脅してみたんですけど』

 「ちょっとまて。アレってなんだ?」

 「というか、屋敷を壊すって・・・・」

 言われた言葉に、二人が首を傾げる。ソレを見て、女は『ええと』と呟くと、話し始めた。

 『昔、一時期ココに住んでいた呪術師士が、作っていた薬をアレにかけちゃったんです。そしたらアレがちょっと大きくなって・・・。
 その時大暴れして、薬品が混じって爆発して・・・。そのあと越してきた魔道士がアレを見つけててしまったんです。
 で、よせば良いのに、合成の材料にしちゃったんですよねー・・・。
 今は眠っている時期だから良いんですけど、こうも上で大騒ぎされたら、目、覚ましちゃいます・・・』

 「いや、だから。危険だってのはよくわかったから。アレってものの説明をしてほしいワケで。」

 いつものくせでつい突っ込む。問いに、女はぽんっと手を打つ。そして口を開こうとした、その時。

 ゴ・・・・ゴォ・・・・・ゴン・・・・・

 「・・・・・・・・・なんか、変な音してない?」

 微かな響いた、ナニかがぶつかる音に気がついたのか、エイトが呟く。ククールも僅かな振動に、眉を顰めつつ足元
を見つめた。

 彼の本能が、ヤバイと告げている。そんな気がする。まず、この屋敷から人々を脱出させて、それから『アレ』とやらを
どうにかしなければ。

 だが、はたして信じてもらえるだろうか。そんなコトをククールが考えていると、エイトは動揺している女に視線をやる。

 「・・・・・・・・・あの、アレってのはゴーストですか? それともイキモノ?」

 『生き物ですよ。でなければ、キメラにはできません』

 「よしッ。じゃあ僕たちでソイツをやっつけよう!」

 『はいっ!?』

 「ソイツ、野放しにしていたら、何も知らない町の人たちが危ないと思うし・・・。それに、どっちみち地下に行かないと『宝』
とれないしね」

 言うと同時に、地下への階段がある場所へと歩き出す。その後ろで困惑したゴーストが、ククールを見やる。

 『あの。大丈夫ですか。止めなくて?』

 「・・・一回言い出したら、聞かないんだ、アイツは・・・」

 問いに頭を抱えつつ、そう答える。こうなったら、止めてもムダ、というのはイヤというほど分かっている。

 仕方なく後を追い、「でも倒すってどうやって」と聞いてみる。なにしろ相手の正体はまだ謎だ。

 武器のないエイトには、戦いようがないだろう。そう言うとエイトはにこりと微笑んで、

 「僕、この間、格闘スキルマスターしたんだ〜」

 「・・・格闘スキル? 本当に?」

 「うんッ。頑張ったかいがあったよ。・・・それに、ククールはちゃんとライトシャムシールを装備してるでしょ?
 ククール、剣スキルマスターしてるし・・・。二人でも大丈夫かなって」

 「・・・・・う。ま、まぁな。まかせろ」

 微笑まれてそんなコトを言われてしまうと、何故か妙にうれしくなってしまうのは、パーティに入った当初、『弱すぎる』と言わ
れ続けてきたからかもしれない。

 ―――まぁ・・・こんな田舎町で、ドルマゲス級の魔物がいるワケないよな。

 たぶん、町の人がおおげさに言っているだけだろう。そう結論付けて、扉の前までやってきた。慎重に扉を開けるが、何もない。

 奥のほうに、ドンっと大きな宝箱があり、血のりをくっつけた人形が散乱している。ぱっと見、かなり不気味ではある。

 が、そんな部屋でもまったく戸惑うことなく先に入ったエイトは、いそいそと宝箱を開けると紫のガラス玉をポケットに仕舞
い込む。

 『この部屋に、隠し通路があるんですよ。アソコの岩壁で、出っ張っているトコがあるでしょう?
 アソコを押すと、隠し扉が開きますから。・・・・・・・それじゃあ、死なない程度に頑張ってくださいねぇ』

 不吉な言葉を残しつつ、女がその姿を消していく。その言葉に、つい視線を足元へ。

 アレから不気味な振動はないが、妙な圧力感があるというかなんというか。

 「隠し通路発見〜」

 が、そんなプレッシャーをものともせず、嬉々として隠し扉を開けて手招きするエイトに、ククールは苦笑する。

 ―――行ってみて、無理そうだったらリレミト唱えて出てこよう。で、事情を話して、あとでみんなで来てみるか。

 狭い通路を気配を探りながら歩みを進める。と、ほどなく広い部屋へとたどり着いた。

 広さだけなら、トロデーンの中庭くらいはあるだろう。端のほうには、なにかしら薬品の入っている瓶が散乱している。

 床には、限界まで使い切ったロウソクと、何かの魔法陣。そして、その上には―――

 「でかっ!」

 ソレを見て、思わずククールが叫ぶ。彼らの前にぶら下がっていたのは、大きさならトロルほどあるだろうと思われる、
巨大な蜘蛛だった。

 既にこちらに気がついているようで、シュルシュルと少しずつ動いては様子を伺っている。

 「な、なるほど・・・。キメラ化したら、でっかくなったのか・・・」

 呻きつつ、そう判断すると剣を抜く。

 「エイト、とりあえず先にオレが呪文で攻撃するから。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エイト?」

 返事がないコトに違和感を覚えて振り返れば、目に入ったのは青ざめて、まっすぐに蜘蛛を見ているエイトだった。

 「エイト?」

 もう一度声をかけるが、どうやら耳に入っていないようである。流石に様子がおかしいことに気がついて、空いている
片手で肩を叩いた、その途端。

 「い・・・・や・・・・、・・・・・・・いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!!! ベギラゴンー!」

 「えええええええええええ?!」

 絶叫すると同時に魔力を掌に集めて炎を生み出し、巨大蜘蛛に向けて解き放つ!

 紅蓮の炎は蜘蛛を抱くと、一気に燃え上がる。普通の魔物なら、その威力に消し炭になっていただろう。だが蜘蛛は、
耐久力があるのか、その炎の中で軋むような悲鳴を上げている。

 「ベギラゴンっ! ベギラゴンっ!! ベギラゴンー!!!」

 「うわあぁぁぁっ!? エ、エイト!? 落ち着けっ! オレ達も巻き込まれるって!! どうしたんだよっ!?」

 「クク、くもクモ蜘蛛・・・・・クモはいやだよぉ・・・」

 「え・・・えぇ!? もしかして、蜘蛛嫌いなのか?」

 初めて見る怯えたエイトに、ククールも動揺する。

 昆虫が苦手、というのは聞いたことがない。コレだけでかいから怯えているのか、それとも蜘蛛だから怖いのか。

 ともあれ、怯えているエイトをこのままにはしておけない。肩を抱き、この部屋から出ようとしたところで、背後で軋んだ
床板のような鳴き声があがった。 

 魔力の炎は完全に消えているが、所々僅かに焦げている蜘蛛は、視界にククール達を捕らえている。その目に殺意を
色を浮かべて。

 ―――まずい。

 そう思った刹那、蜘蛛が走り出した。尋常ではない速さに、素早く呪文を唱えて解き放つ!

 「バギクロス!」

 真空に巻き込まれて、怯む蜘蛛を視界に納めつつ、エイトを死角へ座らせる。

 「すぐ戻ってくるから!」

 言うと踏み出し、剣を床に突き立て呪文を紡ぐ。

 「ジゴスパーク!」





 完全に動かなくなったかを確認してからエイトの元へと戻ると、がくがく震えながら、自分を抱きしめているのが目に入った。

 「・・・エイト?」

 怖がらせないようにそっと腰を下ろして声をかけると、弾かれたようにエイトが顔を上げた。

 「蜘蛛、もういないよ。安心して」

 「ほ・・・ホント? ホントにいない?」

 「いない。大丈夫だよ」

 安心させるように頭を撫で優しく語り掛ける。その言葉にやっと安堵の色を浮かべた。

 「ご・・・ごめんね。僕・・・・・・蜘蛛だけは、その・・・・・苦手で・・・・見ると、頭真っ白になっちゃうんだ・・・」

 「いや・・・気にするなって。誰にもでも苦手なものはあるし」

 慰めの言葉に、エイトはため息をついて首を振った。どうやら相当落ち込んでいるようで、その瞳に暗い影が落ちている。

 「だってアレだけ大見得きったのに・・・ダメダメでカッコ悪すぎる、僕・・・・」

 再び項垂れてしまったエイトに、ククールは笑みを浮かべると、頭を撫でていた手を、そっと肩に添えた。

 「そんなコトないって。人間誰にだって怖いものや苦手なものはあるだろ? ダメダメでかっこ悪いっておまえは言うけど、
 そんなに気にしなくったって、大丈夫だよ」

 「でも・・・。ちょっと情けなさすぎる。せめて、見ても頭がわーってならないようにしないと・・・・。
 前に宿屋で出た時なんて、ベギラマ唱えようとして、ゼシカに止められたコトがあったんだ」

 「・・・そりゃあもうちょっとで大惨事だったなぁ」

 心の裡で、恐らく必死になって止めてくれたであろうゼシカに感謝しつつ、エイトの肩を抱き寄せる。

 「けどさ。オレは、そーいうトコ見れてちょっと嬉しかったよ? 
 エイトにも苦手なものがあるんだって分かって、ちょっとほっとした」

 「・・・ほっと・・・した? どうして?」

 「いつもオレのほうが情けないトコを見られてるだろ?」

 いつぞや、聖地で出会った自分の兄のコトを思い出す。言われた言葉で酷くイラつき、仲間達に対して暴言をはいたりした
のは、記憶に新しい。

 「ええっ?! そそ、そんなコトないよっ。ククールは、情けなくなんてないっ。
 僕が保障するからっ!」

 必死になってそう言ってくるエイトに、ククールは笑みを浮かべる。

 「じゃあ、オレも保障する。エイトのそういうトコ、情けなくなんてないよ。っていうか、可愛い」

 「・・・・・・・かっ・・・・・・!?」

 ほぼ毎日言われているのに、未だ『可愛い』という単語に弱いらしく、エイトは途端に真っ赤になる。その様子が可愛らしくて、
ククールは言葉を続けた。

 「初めて見たしな。エイトのそういうトコ」

 「・・・・っ・・・・・わ、忘れて・・・・」

 「いやいや。勿体無いから覚えてます。可愛かったなぁ。ふるふる震えて涙目で・・・・」

 「ばばば、ばかぁっ。恥ずかしいって言って・・・・・・・・・」

 文句を言おうとしているエイトの唇に、素早く唇を寄せる。何度か啄ばむように唇をあわせてから、いつものように―――

 『・・・・・・あのぉ。お邪魔をするようで申し訳ないんですが・・・』

 「ひいあぁぁっ!?」

 「ぐはぁっ!?」

 至近距離にいきなり出現したゴーストに、エイトは驚きいきおい余って力いっぱいククールを突き飛ばす。

 「ゴ、ゴーストさんっ、ああああの、あのあのけしてそのぼくはっ」

 『見事に動揺してますねぇ。ま、それはさておき。あの蜘蛛を退治してくださって、ありがとうございます』

 「え、あ、いえその。ど、どういたし、まして」

 何故か正座しつつ、こくこく頷くエイトの後ろで、ヨロヨロヨロヨロとククールが起き上がる。

 「ま・・・まぁ・・・コレで・・・・あんたも安心だろ? オレ達もそろそろ上にいかないと」

 「そ・・・そうだね。肝試しの途中だったし」

 立ち上がり、階段を目指そうとして。

 『あの。それで、もう一つお願いがあるんですけど・・・・』

 「・・・はい?」

 「なんだ? もしかして、あとはこの屋敷に二度と人が入らないようにしてください、とか言うつもりか?」

 振り返ってそう言うと、ゴーストはふるふると首を振る。

 『いえ。蜘蛛の残した卵がさっき孵化したんで、その子供たちもどうにかしてもらおうかとおもいまして』

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たまご・・・・・・・・?』

 空気が。時が止まったような気がした。が、かまわず女ゴーストはこくりと頷く。

 『卵です。ざっと百匹ほど。ほら、その壁の割れ目からもう一部がワラワラと』

 言って指差した場所からは―――

 「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 「うわあぁぁぁぁ!!? 落ち着けエイトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 「ギガブレイクゥゥゥ!!!」

 「ちょ・・・・・・・!?」

 止める間もなく、エイトの手に強大な魔力が集まる。そして。



 ―――静かな町の郊外に、古い屋敷が崩れ落ちる音が響きまくったという。




 そしてその日以来、ククールは全力でエイトに蜘蛛を見せないように努力するようになった。

 彼の努力によって、今のところの被害はないという。














 『あの。住むところ無くなっちゃったんですけど。仕方ないんで憑いていいですか』

 「すみませんごめんなさい成仏してくださいっ」













 結局、賞金はもらえなかったようです。でも屋敷を壊すお金が浮いた、とのコトで、お礼だけ
はもらえたようです(笑)


 ・・・・ほのぼのになってなくてごめんなさい。

 つ、次はほのぼの予定です。



        閉じてお戻り下さい。


 
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