『きもだめし?』

 「そっ。一番早く脱出した人には、なんと賞金がでるのよ!」

 その日立ち寄った町では、日ごろの暑さ対策と余興をかねて、ここ七日間ほど町の郊外にある古い一軒家で肝試しを行っ
ていた。

 聞けば、今日が最終日。参加費は一人三十ゴールド。ルールは、洋館の中を進んで、奥の部屋にある『宝』を取って出口
に向かうだけ。

 その時間が早かったものに、賞金五百ゴールドが渡されるという。

 「ふぅん。それで、今まで一番早かったヤツって、どれくらい?」

 「それがいないんですって」

 「・・・いない?」

 不吉な答えに、ククールが柳眉を寄せる。

 その様子に、ゼシカは何故だか楽しそうに笑みを浮かべると、こそりと小声で言葉を続けた。

 「なんでも、あまりの怖さに、みんな途中で危険するらしいのよ」

 「へえぇ・・・。ゼシカは出るの?」

 「違うわよ。エイトにどうかなって思って」

 いきなり自分の名を呼ばれ、食べていたハンバーグをそのままに、きょとんとした顔でエイトはゼシカを見上げた。











                            アレ



                                               






 イスに座ると、ゼシカは話を続ける。

 「いつだったか、エイトが言ってたのを思い出したのよ。
 たしか、昔そういうのに出て、一番早く着いたって言ってたわよね?」

 食べていたものを飲み込んでから、エイトが頷く。ソレを見て彼女はにこりと笑うと、

 「過去にもそーいうコトがあるし、怖いものなしってかんじだし、間違いなく一番に脱出できると思うの。
 ね、出てみない? 優勝目指して」

 ポケットからチラシを取り出して広げつつ、やや興奮気味に喋るゼシカに、ククールは肩を竦めた。

 「ゼシカはでないのか」

 「出ようかなって思ったんだけど、驚いたとき、つい反射で攻撃しちゃいそうで・・・。
 ムチとかならいいだろうけど、間違ってイオナズンとかメラゾーマとかうったりしたら、やっぱりまずいじゃない?」

 言われて、その光景が容易に想像できてしまった。そのコトに軽く頭痛を覚えつつ、その肝試しについての問題点を指摘
する。

 「脱出って言ったよな? ってコトは洋館内をぐるぐる回るんだろ?」

 「そうみたい。結構広いお屋敷だけど、地図もらえるから平気・・・・・・・・・・・・・あ」

 言い終えて、ゼシカもやっとソレに気がついたのか口元を押さえて、気まずげにククールを見やる。

 「方向オンチのエイトが、一人で一番に脱出できると思うか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・無理ね」

 「無理でげす」

 「無理だよねぇ」

 「自分で言うな」

 まるで他人事のように言うエイトの頭を軽く小突いてから、ククールはゼシカに向き直る。

 「ソレ、どうしても出たいの?」

 「う〜ん・・・・。そういうワケじゃないんだけど。ただ、エイトならいけるかなぁって思ったから・・・」

 でも無理なら、といいかけたところに、ぽんっと手を打ってエイトがククールに視線を投げた。

 「ククールと一緒に出たらいいんじゃないかな?」

 『へ?』

 「ほら、ククールは地図を読むの得意でしょ?」

 笑みを浮かべて言うエイトに、なるほど、とゼシカが頷く。

 「じゃ、決まりねっ。カップルで参加もOKみたいだしっ。私、申し込んでくるわっ。あっ、エイト!
 準備もあるから一緒に行くわよっ」

 「? う、うん」

 まだ良いと言っていない、と言う前に、ゼシカはエイトをひっぱって食堂を出て行ってしまった。

 残された男二人は、彼女達が出て行った扉を暫く無言で眺めていたが、ふと我にかえると、お互いに視線を交わす。

 「ま、頑張ってくるンだな」

 励ましの言葉をかけるが、目の前の男は眉間に皺を寄せてただ呻くだけだった。

 その様子に首を傾げつつ、彼の顔を覗き込む。

 「どうした? やる気なさそうだな。なんなら俺が兄貴と出てもいいんだぜ?」

 「あぁ。・・・いや、そーいうワケじゃなくてさ。その・・・・エイト、そういうの怖がらないなぁ、と思って」

 「だから、ゼシカの姉ちゃんもぴったりだって思ったんだろ?」

 そう返すと、ククールは小さくため息をつく。いったい何が不満なんだ、とヤンガスが問うと、彼は拳を握り力強く語り始めた。

 曰く。

 「フツー肝試しとか、そーいう展開だったら、男なら誰だって思うだろ! 『きゃあっ、怖い!』とか言いつつ、涙目で腕にす
がり付いてくる女の子の姿を! でもって、ソレを宥めつつ、出口までしっかり抱き寄せたりとか!
 普段、男らしくても、そーいうのに弱かったりすると可愛いだろ?
 でもエイトの場合、そーいうの夢のまた夢! 行っても面白くなさそうだなぁって。いや、エイトは常に可愛いンだけどさ。
 だけどそういうトコだったらやっぱりそういうリアクションが欲しいなって思うわけよ」

 彼の妄想をひとしきり聞き終えたヤンガスは、重いため息をつくと、

 「やっぱり俺が出たほうがいいんじゃねぇか」

 と呟いた。









 戻ってきた二人の姿に、男二人はただ呆然としてしまった。

 やたら笑顔のゼシカはともかく、その後ろで恥ずかしそうに俯いているエイトの姿に、ククールは見入ってしまう。

 「だってホラ、カップルで、ってコトでしょ? だから、エイトには女の子に見える服装ってわけ」

 嬉しそうに笑みを浮かべつつ、背後のエイトを前に押し出す。

 「ううう・・・・」

 着慣れないものを着ているせいか、今にも泣き出しそうな顔をしているエイトに、ゼシカは得意げに胸をそらす。

 「どう? 可愛いでしょ」

 「可愛いっ!」

 即座に反応すると立ち上がり、エイトの手を取る。あまりの素早さにエイトが驚いているが、ククールは上機嫌である。

 「いつものエイトも可愛いけど、こーいう格好もいいなぁ」

 「・・・・・・そ、そうかなぁ」

 ヒラヒラと風を受けるたびに揺らぐ裾が気になるのか、押さえながら聞いてくるエイトにククールは頷き、肩に手を置く。

 「エイト」

 「な、なに?」

 「肝試しまではまだ時間がある。・・・だから今すぐオレとデートってコトで!」

 「えっ、えぇぇぇぇ!? ちょっ、こんな格好、恥ずかしいよぅっ! ひあぁぁ・・・・・・・」

 遠ざかっていく声に、ゼシカは黙って手を振るとイスに腰掛けて何事もなかったかのようにドリンクを注文する。

 「・・・ほっといていいのか? アレ」

 「うふふ」

 彼らが消えていった扉を眺めつつ、そう聞けば、ゼシカは口元を笑みの形に歪める。

 その笑みが、なにか企んでいそうな女ボス、と言った笑い方に見えてしまって、ヤンガスは思わず首をすくめた。

 パーティ内では戦闘力が一番低いのに、どうしても誰も彼女に逆らえない。たぶん、ソレが原因で、そういう笑顔に見えて
しまったのかもしれない。

 そういうコトにしておこう。心の中で頷いたとき、ゼシカは運ばれてきたドリンクを手に取り、再び笑う。

 「いいのよ。後でたっぷり苦労してもらうぶん、今楽しんでもらうわ」

 「・・・・・・・・・・・・・なるほど」

 納得したのか、一つ頷くと彼もまた座りなおし、やってきたウェイトレスに、麦酒のお代わりを注文した。









 どんなに女の子らしい格好をしようとも、中身はいつものエイトだ。最初は恥ずかしがっていたが、食べ物に釣られて
すっかりククールのペースに乗せられ、戻ってくる頃にはスカートに慣れてしまっていた。

 「あのね、なんかいろいろとオマケしてもらえたんだよ」

 嬉しそうに話すエイトに、良かったわねぇと返して背後で幸せそうに微笑んでいるククールを見やる。

 「・・・・・ホント、楽しそうだったみたいね」

 「うんっ。・・・スカートも、たまにはいいかなぁ。たまに、だけど」

 「そう、良かったわ。じゃあ今度、一緒に買い物に行きましょうか」

 「うんっ」

 「楽しみね。・・・ところで、もうすぐ時間だと思うから、あそこの受け付けで登録してきてくれる?」

 「わかったー!」

 元気に駆けて行くエイトの後姿を見送ると、ゼシカはククールを見上げる。

 「じゃあ、しっかり道案内よろしくね」

 「ああ、まかせとけっ。絶対一位になってやるさ」

 昼間のデートで幸せを充電してきたせいか、やたら元気になっているククールに、ゼシカはにやりと笑う。

 ―――ククールは元気になって、エイトはスカートに抵抗を示さなくなって。で、あとは優勝するだけね! 

 心の裡でガッツポーズをとりつつ、彼の背を叩くと「頑張ってね」と告げると、ヤンガスのいる方へと歩きだした。









 ・・・・ギッ・・・・・・・・キギィィィィィキィィィィィィィィィィィ・・・・

 軋む音をたてて、重厚な扉が開かれる。開かれたその先は、入り口から差し込んだ明かりでうっすらと照らされるだけで、
暗闇だけが広がっている。

 入り口から僅かに見えるのは、古ぼけ煤けた絨毯。鈍く光る鎧。ボロボロになった絵画。ちなみに窓にはいたが打ち
付けてあり、その隙間からボロボロになったカーテンがはためいている。

 あまりにもそういう雰囲気を醸し出しているその洋館に、ククールは感心する。

 「肝試しのタメにわざわざこういうの作ったのかね」

 呟きに、主催と思しき男性が朗らかに笑う。

 「いえいえ。ココはもとからこーいう感じなんですよ。五十年ほど誰も住んでないんで、有功利用させてもらおうかと思いま
してね」

 「へぇ? もったいないな。でかい家なのに・・・。手直しすれば住めるだろうに、どうして誰も住まないんだろ」

 町から少し離れているとは言え、そう不便でもないだろう。もっとも、手直しに金がかかりそうなぶん、誰もそうしたがらない
だろうが。

 ククールの考えを知ってか知らずか、男は照れくさそうに笑うと、

 「いやぁ。恥ずかしながら、この家、住んでいた領主様が夜盗に惨殺されて、そのあと引っ越してきた金持ちが次々と
流行り病で倒れて亡くなった後、誰もいないのを良いコトに隠れ住んでいた盗賊が、通りすがりの魔道士に全滅させられ
て、そのあと越してきた呪術士が、自分の研究が暴走して巻き込まれて亡くなって、そのあと更に越してきた合成獣研究
者の合成獣が逃げ出して、町がちょっと壊滅状態に追い込まれたりした、結構呪われた屋敷なんで、誰も住みたがらない
ンですよ」

 「取り壊せぇっ!! っていうか、照れるようなモンじゃないだろ?!」

 思わず全力で突っ込むが、男は困った顔で首をかしげつつ、

 「それが、壊そうとすると何故か工事関係者が次から次へと謎の高熱を」

 「・・・・・・・・・封印しろ。こんな家」

 と、いうよりそんなトコで肝試しなんてして平気なんだろうか。思うが、これ以上聞いたらもっとヤなコト言われそうだ。

 そんなやりとりをしている後ろで、エイトは魔力を灯した明かりと、地図を受け取っている。

 「ククール。次の次、僕たちの番だって」

 「・・・・・・・・・・・おぅ」

 言われるまでは余裕だったが、そんなどこまでも呪われて怪しげな話を聞いた今となっては、入りたくない。

 が、ゼシカにああまで言った手前、そういうワケにもいかない。

 仕方なく地図を受け取り、順路を確かめる。ルートは一階から中央の階段を上り、二階の書庫にある『宝』をとる。

 そのあと三階に行って広間の『宝』を取り、地下まで戻って最後の『宝を取る。』

 「・・・で、ココに戻ってくればいいのか」

 呟いて、洋館を眺める。あんな話を聞いたからか、妙なプレッシャーを感じてしまう。

 ―――が。

 「いこっ、ククール。頑張ろうねっ」

 するんと腕を組んで上目遣いに微笑むエイトの一言に、ククールは「まかせとけ」と即座に返事をして屋敷へと一歩踏み
出した。






 ギシィ・・・ギシィ・・・ギシィ・・・・

 歩くたびに床が軋む。壊れかけた扉が、誰もいないハズなのに、何故かぎぃといきなり開いたりしたが、とりあえずなに
かの細工があるんだろうと、思い込むコトにする。

 たまに扉からゾンビに扮装しているらしい脅かし役が飛び出してきたりもするが、何故かエイトは楽しそうに笑ってバイ
バイと手を振っている。

 結構気合の入った姿で、暗闇でこんなふうに出会ったりしたら、普通の神経ならば心臓が持たない。

 事実、時折、先に入っていった人たちのものすごい悲鳴が屋敷に木霊している。

 そのあと、風の魔法に乗って『17番さんリタイアです』という声が聞こえてきたりした。

 ―――ちっとも怖がらないなぁ。

 腕に捕まったエイトは、どこかわくわくした顔で「次はなにが出てくるのかな」と瞳を輝かせていたりする。

 その様子に、ちょっと怖がるエイトも見てみたかった、なんて思いつつ、歩くスピードを速める。

 ―――とっとと出よう。なんかイヤな予感がするし。

 やっと書庫に辿りついて、一つ目の『宝』を探す。と、三列目の本棚の後ろにあからさまな宝箱がおいてある。

 あけると、オレンジ色のガラス玉が大量にはいっている。どうやらコレが『宝』らしい。一つ取ると、ポケットにしまう。

 「じゃあ、次は三階に行こうか」

 「うんっ」

 再び腕を組もうとして。

 「?」

 「どうしたの?」

 ククールがある方向を見ているのに気がつく。どうしたんだろう、とエイトが首を傾げると、ソレに気がついた彼が首を振る。

 「や、なんでもない。・・・なんか、いたような気がしたンだけど・・・・。気のせい、かな」

 きっと神経が過敏になっているんだろう。そう考えて、ククールはエイトの手を取って書庫を後にした。





 二人が出て行ったその後に、ごそり、となにかの影が動き、彼らが出て行った扉をじっと見つめていた。














 二周年で一位になった「いつものエイトとククール」です。

 ・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・全然ほのぼのしててなくて、ホントにいろいろとごめんなさい。

 このあとほのぼのする予定・・・・・だと、思います。たぶん。きっと。






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