舞台の上では、様々な物語が繰り広げられていた。

 御伽噺や悲恋モノやら喜劇やら実に様々。観客達はそれらに見入り、審査員達はシビアに点を入れていく。

 そんな中で、ミランダ達の舞台が幕を開けた。

 ―――自慢するだけあって、確かにすごかった。ストーリーもさることながら、役者の演技は素晴らしい。

 演出もまた見事で、思わず感嘆のため息が出てしまうほど。そしてソレに見合うほどの、大道具と小道具の出来のよさ。

 こんなトコでコンクールになんかでなくても、劇場を作って個人でやればもうかるだろうに。

 まさかとは思うが、シィルを追っかけてコンクールに出まくっているんじゃないよな。だとしたら、もうソレはストーカーだよな。

 もう少し眺めていたいところだが、いつまでも見ているワケにもいかない。用意された部屋に行き、自分達の出番に備えて準備を
始める。

 みんな大忙しで準備に取り掛かっている、その最中。部屋に慌てた様子でメイクさんが駆け込んできた。その顔色は真っ青で、な
にかがあったのだと容易にわかる。

 何があったのかと聞いてみれば、ポーラがぐっすりと眠ってしまって起きない、とのこと。

 隣部屋のメイク室に行って見れば、備え付けのイスの上で、すやすやと寝ているヒロイン役のポーラの姿。

 「・・・・やられたわね」

 ゼシカの声に振りかえれば、すぐ傍にはカップが置いてあって、中には飲みかけのコーヒー。

 「・・・一服盛った、ってか?」

 匂いはコーヒーに紛れてわからないが、この様子では暫く起きそうもない。流石に呆れた。いくらなんでもやりすぎだろう。

 「・・・・でも、衣装は無事みたいです。・・・前は衣装もビリビリにされてましたけど・・・」

 「ちょっ・・・・ソレ、言った方がいいんじゃないの?」

 「言っても無理なんです。ミランダさん、権力があるんで、私なんかの意見は・・・・」

 ゼシカの言葉にシィルが悲しげに俯く。ソレを横目で見ながら、ポーラの様子を伺っていたエイトがオレを振り返った。

 「呪文は効かないか?」

 「無理だな。呪文や甘い息で眠っているならともかく、薬物で眠らされているのなら、まだ体内に効き目が残ってる。
 その状態で起こしたとしても、またすぐに眠るだろ。かといって、毒物ってワケじゃないから、キアリーも効かないだろうし・・・」

 今から代役、なんてのも無理な相談だ。もともと人数が少ないせいで、万が一のときの代役なんて用意していない。

 そのコトにシィルも気がついたのか、青ざめてどうしようと呟いている。

 オレ達の出番も、あと少し。時間があまりにもなさ過ぎる。こうなったらムダだと分かっているけど、キアリーでもキアリクでも
かけてみるか?

 「私ではダメだろうか」

 『え?』

 響いたエイトの声に、皆が振り返る。シィルはまるで女神が舞い降りたのを見たかのような少女のように、胸の前で手を組んで
エイトを見つめる。

 が。オレとゼシカは戸惑ったように顔を見合わせてしまった。

 「エ・・・・エイト、気持ちはわかるけど、たぶん・・・・・無理、じゃないかしら?」

 「そ・・・そーだぞ? おまえ、演技苦手だって言ってただろ? それに台詞だって知らないだろ?」

 稽古の最中、エイトは見回りのためにほとんど外に居た。つまり、どこでなにがどーなるのか、まったく分かっていない。

 だというのに、演技の練習なんてしたことのないエイトに、いったいなにが出来るというのか。

 静かになる部屋の中、団員が戸惑ったようにシィルを見やる。けれど、さっきまで青ざめていた彼女は、まるで別人のような顔
つきになっていた。

 ほんの少し考えるように唇に指先を当てていたが、すぐに顔を上げると声を張り上げた。









 ジリリリリリリリリリリ・・・・・・・・

 けたたましく開幕のベルが鳴る。いよいよ始まりってワケだ。ちらりと袖から見てみれば、いい席を取っていたらしいミランダが、
ほくそ笑んで舞台を眺めている。

 たぶん、無駄な努力ね、とか思っているんだろうな。ともあれ、そんなヤツが見ていても幕はあがる。

 最初は姫が生まれたシーンから。魔法使い達が祝いに訪れ、姫に祝福の魔法をかけていく。

 そんな中、悪い魔法使いが現れて、姫に邪悪な呪いをかけて去っていく。が、ゼシカ演じる善い魔法使いが、その呪いを薄める
魔法の言葉を紡ぐ。

 「姫は今この瞬間から、声を発することは出来なくなる! そしてその美しい声を誰にも聞かせることなく、十六の誕生日に、
茨に巻かれて死んでしまうだろう!」

 このセリフは、最初と違う。シィルが、咄嗟に変更したものだ。

 あのあと、シィルは恐ろしい速さで羊皮紙に変更したセリフを書きあげると、全員に渡した。全体的にはあまり変わっていないが、
エイトに関するトコはすべて直されている。

 ・・・たったアレだけの時間で、よくココまで考え付いたな、と感心するが、覚えるこっちとしては、前のセリフとごっちゃになってしまう。

 「そんなコトはさせないわ。姫の声にかけられた呪いは、王子と出会い恋をすることで解けるでしょう。
 そして茨に巻かれるのではなく、茨に囲まれて眠りにつきますが、王子のキスで目を覚ますのです」

 魔法使い役のゼシカがそう言うと杖を振る。

 ・・・・・上手くつじつまを合わせたような、ちょっと強引なような・・・。

 ともあれ、その状態ならエイトも喋らなくていいわけだが・・・・喋らなければ、そのぶんだけ演技も難しくなるというもの。

 まぁ、お付き役のコが上手くフォローしてくれるコトを祈るのみ、だ。

 ふと、視線を観客席にやってみれば、だいぶ表情が崩れてきたミランダが目に入った。

 ちょっとしてやったり、という気分だな。・・・問題は・・・・そろそろエイトの出番だ、というコト。上手くいくかどうか。

 向こう側の舞台袖に、淡い空色のドレスを身に纏ったエイトの姿が目に入る。遠目で見えにくいが・・・うん、ちゃんと姫っぽく
見えるような。

 短い髪も、今はエクステで誤魔化してある。あとは、繊細な動きができるかどうか・・・。頼むから、転ぶなよ。

 と、オレの心配をよそに、エイトが一歩進む。

 まるで本物の姫君のように、背筋を伸ばして歩き出すと、ふと咲いている花々(という設定の大道具)に気がついて、やんわり
と微笑む。

 ・・・化粧をしているからか、いつものエイトとはまったくの別人に見える。言われなかったら、エイトだなんてわからない
かもしれない。

 ・・・・というか・・・。笑えてるじゃないか。前にオレが笑ってっていったときはムリだって言ってたのに。

 いやでもアレは作り笑いで、オレが見たい笑顔とはほど遠いけれど。けど、なんかこう・・・・むかつくよーな。

 「ククール、もうすぐ出番よ」

 「え? ああ・・・」

 ぼんやりと眺めていたら、トンッとゼシカに背中を突かれた。

 「どうしたの? しっかりしてよね。あんたの身はともかく、シィルの生活がかかってるんだから」

 いやあの。オレのコトも同じくらい心配してくれると嬉しいんだけど。

 「ククールさん、そろそろ・・・」

 「あ、あぁ」

 シィルに声をかけられ、舞台袖へ。

 音楽が響く中、オレも一歩進み―――

 「こんにちは。素敵な庭園ですね」

 花を愛でていたエイトに声をかける。その声に驚いて立ち上がり、慌てて挨拶。・・・よし、あともう少し。

 姫の声が出ないコトに気がつかない王子は暫く話しかける。そしてやっと気がついて、姫に詫びる。心優しい姫は微笑んで
王子を許してくれる。

 ・・・という流れなんだけれど。

 間近でエイトを見つめると、コレがまた本当に別人のようで。驚いて一瞬セリフが出てこなかったくらいだ。

 化粧のせい、かと思ったが・・・うっすらと頬を染めているのは、どうやら違うようだ。たぶん、本人は無茶苦茶恥ずかしいんだ。

 そのせいで瞳はうっすらと濡れているし、とった手は微かに震えている。・・・緊張してるのかも。って、当たり前か。

 姫と王子の会話のあと、そこにメイド達が現れてエイトを連れて城の中へと戻っていく。

 よしっ、まず最初は乗り切った! あとはエイトが茨に囲まれて眠りについて、オレが助け出す。

 ようするに、オレの見せ場ってワケだ。ココでなんとか頑張らないと、不幸な未来が待っている! 

 ちらり、とミランダの様子を見れば―――・・・・・

 あれ? いない? トイレにでも行ったのだろうか。気にはなるが、それどころじゃない。舞台の上では、エイトが茨にまかれ
今まさに眠りにつくシーンだ。

 ・・・・・・このシーン、エイトにとっては辛いかもなぁ。

 そんなコトを考えていると、暗転になりエイトが戻ってくる。その顔色は、薄暗いなかでもわかるほど、あまりよくない。

 「すまない。あとは頼む」

 「あ、あぁ。またあとでな」

 ナレーションが終わったその後に、オレの出番。隣国の王子であるオレの部屋に、魔法使いのゼシカが現れて、姫を助けて
ほしいと剣を手渡す。

 その剣を持って城へと出向き、茨に剣を向けると、まるで出迎えるように茨が道を作る―――ハズなんだか。

 『っ!?』

 ソレを見つけて、オレ達はほぼ同時に息を呑んだ。何故か、大道具の茨の中に、茨ドラゴンが混じってた。

 ってなんでだよっ?!

 慌てて剣を引き抜くものの、所詮作り物。安全性を考慮してあるから、魔物なんか退治できるはずがない。

 ふと視界に端ににやにやと笑うミランダが入ってきたが・・・・まさか、あいつが?

 思う間もなく、奈落の蓋が開いてそこから茨ドラゴンが現れた! 事情を分かっていない観客席からは「リアルね」という声が
聴こえてくるが、もし本物と知れたら、大パニックになるだろう。

 飛び出してこようとしているヤンガスやエイトを手で制し、呪文でどうにかならないかと思案する。

 けれど、こんなトコでバギを唱えようものなら、確実に大道具や書割は壊れてしまうし、もしかしたら客席にも被害がでるかも
しれない。と、いうわけで剣で向いうつ。が、案の定ぽっきりと折れる剣。

 ど・・・どうする!? 火炎の息を吐かれでもしたら、えらいコトになる!

 ―――と。

 「王子様!」

 声と共に、ゼシカが飛び出してくる。ってまだ出番じゃないだろ!?

 「申し訳ありません、王子!姫を守るはずの茨が、あの魔法使いに操られてしまっているようです!」

 言いつつ、ムチで威嚇してながら聖銀のレイピアを渡してくれる。

 「その剣には魔力が篭っています。お使い下さい!」

 「わかった!」

 ナイスフォロー! ゼシカのフォローもあるし、今のレベルなら一匹くらいどうと言うコトはない!

 二度、三度、オレを捕らえようと伸ばされた茨をかわし、なんとか間合いに入って斬りつける!

 観客席からは、歓喜の声。知らないって、幸せなことだよな。ついでにミランダは目を点にしてぽんやりしている。

 ・・・・こいつ・・・あとで覚えてろよ。

 どさり、と力を失い倒れる魔物。ほほど同時にゼシカも倒したらしく、息を荒くしつつもオレを見たあと城を指し、

 「姫はあそこで、あなたを待っています。・・・私が力になれるのはココまでですが・・・どうか、お気をつけて」

 言って、袖へと戻っていく。・・・な・・・なんとか繋がった。そして暗転。舞台は城内部へ。

 途中、ヤンガス率いる悪人達をへち倒し、先に進んで残ったのは玉座に居座る魔法使い・・・・ってあれ?

 気のせいか、なんか・・・こう、シルエットが別人・・・・のような。

 イヤな予感がしつつも、台本どおりにセリフを紡いで。

 「おーほほほほっ! よくココまでこれたわねぇ! 褒めてあげるわっ!」

 うわあぁぁぁぁっ!?

 やっぱりあんたミランダ! つーかどうやって入り込んだ?! 舞台袖に目をやれば、泡吹いて倒れかけているシィルの姿。

 ・・・・・そーとーショックだったようだ。ってオレも倒れそうなんだけど。 

 にしても、こいつ、なにがなんでも舞台をめちゃくちゃにしたいんだな。ソコまでされるほど、シィルが恨まれているようには
見えないんだけど・・・。

 観客席からもザワザワと動揺の声。とりあえず無視してセリフを紡ぐ。もっともミランダはそれすら無視しているから困る。

 どうする? もう面倒だし問答無用で鳩尾に一発食らわせて黙らせるか?! ・・・いやでも、それってあんまり王子らしからぬ
戦い方のような気も・・・・。

 ―――ん?

 ふと気がつくと、反対側からゼシカが杖を振ってパクパクと口を動かしている。・・・・あぁ、なるほど。

 「よく聞くがいい、悪しき魔法使いよ。この剣には、善良な魔法使い達の魔力が篭っている。
 これを使えば、姫にかけられた呪いはすべてあなたに跳ね返るだろう!」

 「んふふ。そんなコト言って、あたしがノるとでも? 残念ながらそーはいかないのよっ」

 胸を張って高笑いするミランダを無視して、ゼシカの言葉と同時に剣を振り下ろす!

 「今こそ・・・その報いを受けるがいいッ!」

 「―――ラリホー」

 ぽて。ぐーぐーぐー。

 こっそり唱えたゼシカの魔法で、いともあっさり眠りにつくミランダ。おし、片付いた。するする引いて行く茨の陰で、足を引っ張られて
退場していく。

 その向こう。ベッドで眠りにつくエイトの姿。

 そっと歩み寄り、膝をついて瞳を伏せているエイトを見つめる。

 「姫・・・・」

 そういえば、こんなふうに眠ったようなエイトを見るのは、初めてだな。

 思いつつも、セリフを口にして。横たわるエイトの傍に手をつく。軽く軋んだ音に、エイトの体がぴくりと動く。

 「・・・どうかもう一度、その美しい瞳を見せてください」

 ゆっくりと、顔を近づけて。観客席からは見えないように、キスをしている、フリを―――

 ・・・・う。いくらフリでも、エイトだと思うと妙に緊張する。

 動かないオレを不思議に思ったのか、エイトが審査員達からは見えないようにくん、とマントを引っ張る。

 「っ・・・・、姫。・・・愛しています。初めて会った、あの時から」

 そうセリフを紡いで、そっと顔を寄せて。すぐに顔を離すと、エイトがゆっくりと目を開けた。

 「・・・姫」

 「・・・・・・・・・・王子、様」

 たどたどしくエイトが言葉を紡ぐ。そして驚いたように口元に手をやり―――

 生まれて初めて言葉を口にした姫は、愛しい王子に抱きかかえられて、頬を染めながら幸せそうに微笑んだ。








 「うっうっうっ・・・・もうしないわぁ。ホントよ、信じて」

 泣きまねっぽい気がしないでもないが、それでもミランダがそう言うと、シィルが「約束してくれるなら」と許してやり、縄は
解かれた。

 ついでに言うと、演出のすごさとか迫力ある戦闘シーンだとかでかなりの評価を貰い、勝負の結果はシィルの勝ちとなった。

 茨ドラゴンはいつ仕掛けたのか、という問いには、オレ達の直前に演っていた時に、万が一のためにと仕掛けて置いたらしい。

 どうもテントに来たときに、どんな演目をやるのかピンと来たようだ。その行動力をもっと違うトコに活かせないんだろうか?

 そして、どうして今までイヤガラセを? の問いに、ミランダはちょっと拗ねたようにそっぽを向いて、

 「だって! 初めて会ったときからどんなにイヤガラセしても、どんなにいぢわるしても、シィルちゃんてば、本番になるとそれ
全部跳ね除けて、あたしよりずっと良い賞をとるんですもの! キャストも本番に強いのばっかりでずるいし!
 親の七光りのクセに、このあたしより優れているなんて! どーしても許せなかったのよぉぉぉ!」

 『たんなる妬みかぁぁぁぁっ!!』

 ミランダの言葉に、全員から総ツッコミと同時に蹴りが入ったのは言うまでもない。







 すべてが終わって日も暮れて。

 テント内では皆が打ち上げをしているというのに、エイトの姿が見当たらない。

 トロデ王とヤンガスは楽しげに酒を酌み交わし、ゼシカもシィルとなにやら盛り上っている。

 どうしようかと少し悩んで―――外に出た。

 テントから少しだけ離れたイスの上に、エイトの後姿を見つけて、歩み寄る。

 「エイト」

 声をかけたその途端。びくりと大きく振るえて、ぎこちない動きで振り返った。

 「あ・・・・な、なんだ」

 「え・・・・いや、その。中にいないから、どこにいったのかなって・・・・」

 「そ・・・・そうか」

 「・・・・ああ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エイトの姫の姿、可愛かったよ」

 沈黙に耐えかねてそう言った瞬間、エイトがイスから転がり落ちた。

 「うわっ!? ど、どうした?! 大丈夫か!」
 
 「だっ・・・だ、大丈夫、だ」

 よろふら起き上がって汚れをはたくも、その顔はちっとも大丈夫ではなさそうだ。

 「もしかして、今頃ものすごい照れがきて、みんなと一緒に居られなくてココに避難した・・・・とか?」

 「・・・・・・・・・・・悪いか」

 不機嫌そうに呟くが、耳まで真っ赤になっている。

 「そ・・・そんなんでよく、演じきれたなぁ。結構サマになってたけど」

 「アレは・・・・ミーティア姫の真似を・・・・」

 「あ、なるほど。身近に本物の姫がいたっけ」

 そりゃいい手本になるよな。

 「・・・ま、でもおつかれさん。恥ずかしいのをガマンして、よく頑張ったな」

 ねぎらいの言葉とともに、ぽん、と背を叩く。

 「・・・・・それは・・・・私の、せいだからな・・・。責任を取らねばならない」

 「・・・責任?」

 「護衛をまかされていたのに、テントへの侵入を許してしまった。
 ヒロイン役のコに、一服盛られるスキを与えてしまった。・・・・これではなにも出来ていないのと同じことだからな」

 「あぁ・・・・気にするなって。あの時は、頼まれて買出しに行ってたんだし、一服盛られたのだって、エイトがシィルを守るために
傍に居たからなんだしさ。それに、ミランダに勝てたわけだし。結果オーライだよ」

 「そう・・・だろうか」

 「そうそう。だから気にするなって。な?」

 覗き込んでそう言えば、エイトが小さく頷いてふわりと微笑む。

 「・・・・・・・・っ・・・・・」

 舞台で見せていた、作り物ではない本物のエイトに笑顔に、とくりと鼓動が跳ねる。

 「・・・? どうした?」

 「あ・・・いや・・・・」

 やっぱり、あの笑顔は可愛いかもしれない。レアモノだからそう思うのかと思ってたけど、違う。エイトは、普通に可愛いんだ。

 近衛兵なんてやっていなければ、きっとその辺の男が放っておかないだろう。

 「にしても、責任感あるよな。そのコトで、苦手なコトたくさんしたもんな」

 誤魔化すようにそう言えば、エイトは頬をほんのり染める。あ。やばい、怒らせた?

 「・・・君が」

 「え?」

 「・・・・・君が・・・・・・いなくなるのは、困る・・・・・」

 俯いて、消え入りそうな声で言われて。・・・・・何故か。オレのほうまで赤くなってしまった。そういえば、負けたらオレはミランダ
のトコに行くって約束してたっけ。了承した覚えはないけど。

 「そ・・・・・、そ、そうだよな。パーティの戦闘力は大事だよな」

 深い意味はまったくなさそうだってのに、そんな可愛らしく言われたら流石に動揺してしまう。

 「・・・・そ・・・じゃなくて・・・・」

 ぽつり、と零された言葉。よく聞き取れなくてエイトを見れば、彼女は視線を地に落としたまま。

 「・・・戦闘力・・・とかではなく・・・・・・・・・・ただ、君には・・・・・傍にいてほしい、と思って、いる」

 「・・・・・・・・エイト?」

 顔は俯いていてよく見えない。けれど、耳まで真っ赤で。

 これは―――これじゃまるで・・・・エイトがオレのコト・・・・好・・・・・

 「えーいーとぉ!」

 突然響いた声に、弾かれるように振りかえれば、酒瓶抱えてベロベロに酔っ払ったゼシカの姿。

 よほど機嫌がいいのだろう。酒瓶ぶんぶん振りながら、よたよたふらふら近寄ってくる。

 ともすれば転んでしまいそうな彼女に、慌ててエイトが駆け寄ってその体を支える。

 「だ、大丈夫か?」

 「へいきー! ねぇエイト! みんな呼んでいるから、行きましょ!」

 「・・・わかった。・・・・ククール」

 「え? あ、なに?」

 一気に変わってしまった空気に、多少戸惑いつつもエイトを見れば、もういつものエイトに戻っていて。

 「君にも・・・ゼシカにもヤンガスにも・・・・、傍に居て欲しい、と思っている」

 言うと、ゼシカを連れてテントのほうへと歩いていく。その後姿を見送りつつ、今の言葉を反芻。

 えええっと・・・・・。

 つまり、それは別にそういう意味ではなくて、仲間として傍に居てってコトでしょうか。エイトさん。

 そ・・・そうだよな。あぁ驚いた。そんなコトないよな。ただ、もの凄い照れ屋だったから、ああいうセリフを言うのにも、真っ赤に
なってしまっただけで。

 動揺してしまった自分に、思わず苦笑。自分もテントに戻ろうして―――

 胸の奥が、ざわりと落ち着かないコトに気がついた。何故だろう。息苦しいような、痛いような、不思議な気持ちがこみ上げてくる。

 まるで、エイトのあの言葉が残念でしかたがない、とでも言うように。

 「・・・なんなんだ?」

 前髪をかきわけて、思わず天を仰ぎ見る。
 
 けれど答えが見つかるわけでもなく、仕方なく胸のざわつきが収まるまで、風に吹かれていた。






 次の日。

 審査員の方々から、同じ演目を私の町でもしてほしい、と要請があったのだが、丁重に断ったのは言うまでもない。












 告白未遂事件(笑)


 酔っ払いゼシカさんは確信犯。


 十万hitありがとうご゛いましたv


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